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第250話 ページ22

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寝汗が気持ち悪くて目が覚めた。ひどい悪夢を見ていたような気もするし、幸せな夢だった気もする。ぼんやりとしたそれは夢か記憶かの判別もつかなくて、いよいよだなと自嘲する。

官舎に戻る気はしなくて、職権濫用を承知で病院の個室を借りた。太刀川さん達のできるだけそばにいたかったが、同じ部屋に泊まればそれはそれで気まずかったのだ。グレンにはこれまた上官という立場を振りかざして同室で護衛してもらっている。それをあのグレンが突っぱねないで従ってくれていることに、私は甘えている。


上着を肩にかけて部屋を出た。廊下は薄暗くて、非常口を示す緑の光だけが煌々と灯っていた。廊下を進んで、シャワー室に入る。服を脱ぎ捨てて浴室に入り、シャワーの蛇口をひねった。ざあざあと降って来る湯の雨の中で「‥‥ばっかみたい」と呟いた。

今考えれば、あの柊真昼ですら柊という檻の中から出られなかったのだ。戸籍を改ざんして名前を変えて過去を隠して生きているだけの私が、どうして柊から逃げられるだろう。結局私は、彼女と同じような道をこれから歩こうとしているのだ。

姉のなしたことを無意味にしているのは他でもない私なのではないか、と思った。


シャワー室から出ても部屋に戻ろうとは思えなかった。この病棟には私たち以外誰もいない。徘徊していてもそれを止める人はいない。

廊下の隅にぽつりと置いてある長椅子に座って、頭をごつりと壁に預ける。何も考えずにぼんやりとした。思考をすることも疲れた。今夜くらいは何もせずに休みたい。グレンには悪いけれど。


「───A?」

首だけを僅かに動かしてそちらを見ると、公平が立っていた。こんな夜更けに何をしているのかと思ったが、人のことは言えないなと考える。

「怪我は大丈夫なの」

「んー、まだちょっと痛いけど大分慣れた」

「休みなよ、ただでさえ‥‥、‥‥」

ただでさえ今日は、疲れただろうに。
その言葉は飲み込んで、密かに溜息をつく。
公平はぱたぱたとスリッパを鳴らして歩いてきたかと思えば、ゆっくり隣に腰を下ろした。


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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時

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