第247話 ページ19
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綺麗な爪だった。剥がされた面影もなく、きちんと血色もあった。
親指でその爪を撫でて、「痛かったろ」と呟く。すると彼女は驚いたような顔をして、次に困惑を浮かべた。まるで労わるようなおれの言葉が予想外だとでも言うように。
「‥‥なんであんたが、そんな顔するの」
「どんな顔だよ」
「‥‥泣きそうだし、怒ってる」
「当たり前だろ！！」
びくりと彼女は身体を震わせた。何も、何もわかっていないのだ、Aは。おれがあの地下でどれほど怒りと悔しさを噛み殺したのか、彼女は何も、これっぽっちもわかっていない。
「‥‥なんでだよ。なんで、おまえが‥‥。‥‥もう勘弁してくれよ、頼むからさぁ‥‥」
震える声で懇願するようにこぼせば、彼女はまた「‥‥ごめん」と言った。この謝罪もきっと、おれが本当に謝ってほしいことに対するものではないのだろう。おれ達を巻き込んで、怪我をさせて、挙句再び殺されかけた。それに対して謝罪しているのだ。
不意に、ぽんと肩に手が乗った。後ろを見上げれば、太刀川さんがAをじっと見ていて、百夜、と言った。
「おまえは実験動物でも、欠陥品でもない」
「‥‥、それは」
「おまえは、百夜Aだ。俺の部下だ。俺が選んだ。そうだろ」
彼女は少し視線を落として、「‥‥はい」と言った。
太刀川さんは一つ息をついて、俯いたままのAの頭をぐしゃりと撫でた。
◇
そもそも私は、自分の身の上話をするのは嫌いだ。客観的に見て、これまでの人生がお世辞にもいい人生だったと言えるものではないことはわかっている。
だから私は、それこそ人生をかけて秘匿してきたのだ。こんな過去を話すなんて、まるで自分は悲劇のヒロインですと言っているようなものではないか。それなのに中将のせいで全てが無駄になってしまった。
同情も慰めも共感もいらない。可哀想だ、なんて言われたら私はその相手を酷く罵るだろう。知ったような口をきくな、と。私の人生が可哀想だったかどうかは、私が自分で、最期に決める。
俺が選んだ、と言う太刀川さんの目には私がいらないと思っているものは欠片もなくて、ただ事実を述べているだけだ、と言うような目をしていた。本当に淡々と、何の感情も込めずに言った。
不必要なものを全て削ぎ落した言葉はそのせいでストンと入って来て、堪らず視線を逸らした。まともに目を合わせていたら泣いてしまいそうだ、と初めて思った。
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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます！ (1月11日 21時) (
レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか？？ (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます！！見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください！！ (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです！ (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夏向 | 作成日時：2017年10月10日 16時
