第194話 ページ5
.
カツ、カツ、カツ、と堅い音だけが響く。
見張りは、私の階級章を見ると「どうぞ」と身体をずらした。扉を引くと、錆びた鉄が不快な音を鳴らしながら擦れあう。独房の扉はそろそろ変えた方がいい。これでは簡単に破られるだろう。
カツ、カツ。目的の人物を見つけ、そこで立ち止まる。
「‥‥こんにちは、少将。ご無沙汰してます」
そう声をかければ、銀髪の男───柊深夜が顔をあげ、驚いたように名前を呼ぶ。切れ長の目の下は薄く黒ずんでいて、心労を思わせた。
「‥‥生きてたんだね。いつ戻ってきたの？」
「つい先日。事情は全て知っています」
「‥‥そう、か。‥‥グレンには会った？」
「まだ一度も」
グレンが、仲間を殺した。にわかには信じられない話だった。まさか、あのグレンが。それが正直な感想である。でも、過ぎ去ったことは変えられないし、知ってしまったものは仕方がないのだ。
「今はですね、正直会いたくなくて」
「はは。わかるよそれ」
「‥‥少将は、大丈夫ですか？」
「なにが？」
「疲れてませんか。髪も少し伸びたでしょう」
「イメチェンしてみました、どうでしょう」
「前の方が私は好みですね」
少将は軽く笑った。張り付けたような、そんな笑み。無理をしていることがばればれだ。致し方ない、とも思う。
「1ヶ月前からここに缶詰状態でね。いつ出荷されるか冷や冷やする毎日です」
「もしかして意外と元気だったりします？」
「白虎丸もいるからね。こんな状況より寧ろ‥‥‥」
言葉を切り視線を泳がせたあと、ため息と、微かな笑い。「嵐雀韻は、元気？」
「まぁ‥‥。事情があってちょっと無理させてたんですけど、戻ってからはめちゃくちゃ干渉してきますね。うざいくらい」
「それくらいがいいんじゃないの？ こんな世界じゃ。‥‥少なくとも、Aちゃんが4年間過ごしてた世界と
ぴくりと指が動いた。
少将の、なにもかも見抜くようなまっすぐな目が、私はどこか苦手だった。でも、「向こう」ではそんな目をした人たちばかりで、最初は、どれだけ慣れるのに苦労しただろう。
「‥‥そう、ですね。全然違います」
人の温かさや、優しさも、「向こう」でないと感じることはできなかった。別に少将たちが冷たいとか、そういうことでは決してないのだけど。
「あんまり無理しないでくださいね」
そっちもね、と少将は軽く笑った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 119人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏向(プロフ) - るい酸性さん» 読み返していただきありがとうございます！6は現在改変中でして、土曜日中に全体公開する予定なのでもうしばらくお待ちください！ (2023年2月11日 0時) (
レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
るい酸性(プロフ) - 久しぶりに読み返しました！6のパスワード教えて欲しいです！ (2023年2月10日 17時) (レス) @page49 id: 825df6404c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏向 | 作成日時：2017年9月7日 19時
