第211話 ページ26
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「今では軍に所属する者はほとんど持っている。Aも10歳で入隊した後すぐにこいつと契約した」
「‥‥契約?」
「そうだ。命懸けで、な」
9歳で世界の様相が変わり、10歳で戦うための武器を命懸けで手にした。果たしておれだったら、破滅だとか命を懸けるとか受け入れられただろうか。
「ちょっと。話し過ぎ」
声がした方を振り向けば、入口にAが凭れかかって腕を組んで立っていた。袖は捲られ黒手袋を嵌めた手には書類がある。
「なんだよ、戻ったんならさっさと言え」
「入るタイミング見失っただけ。あんまり喋りすぎないで」
「こいつらが何にも知らねぇって言うからおまえの代わりに話してやったんだろ。で、進捗は」
「空き部屋はないから連れて帰る。これ中将に渡しといて」
「報告書くらい自分で出せ」
「どうせこの後中将のところ行くんでしょ」
渋々一瀬さんはそれを受け取って立ち上がる。俺呼んだのは雑用押し付けるためかよ、という苦言が呈されるが彼女はどこ吹く風である。ああAは彼に甘えているんだなと唐突に思った。保護者というのは本当らしい。
「A」
一瀬さんは部屋を出る直前、扉に手をかけたまま彼女を呼んだ。Aが彼を見ると、一言「用心しろ」と残して、扉は閉められた。
用心しろって言われてもねぇ、と彼女は言った。心配してるんじゃないですか、と歌川が言うと「‥‥どうだか」と呟く。
「百夜、連れ帰るってどういうことだ?」
「太刀川さん達もなんとなく察してると思いますが、すんなり帰れないということです。厄介な場所に来てしまいましたねぇ」
「‥‥敵地の中にいて簡単に帰れるとは思っていない。俺達はどうすればいい」
「ひとまず安全な場所へ移動します。この組織のことや詳しい方針は、そこで話しましょう」
「遠征艇の方は?」
「それも後で対応する。通信入れておいてくれると助かる」
トントンと話が進んで、おれ達はようやくその部屋を出た。ここはどうやら街を囲んでいる壁の内部のようで薄暗い。
時折すれ違う軍人が彼女を見ると道を譲ることから、それなりの立場の人間なのだと察した。
ボーダーにいた頃の彼女とは雰囲気も何もかもが異なって見えて、まるで別人のようだった。それもこれも全て、この壊れてしまった世界のせいなのだろう。
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夏向(プロフ) - るい酸性さん» 読み返していただきありがとうございます!6は現在改変中でして、土曜日中に全体公開する予定なのでもうしばらくお待ちください! (2023年2月11日 0時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
るい酸性(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!6のパスワード教えて欲しいです! (2023年2月10日 17時) (レス) @page49 id: 825df6404c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2017年9月7日 19時