甘い【9】 ページ10
俺は普通に部活をしていた。
今日は部活が終わったらさっさと帰って店番して、お店で彼女が来るのを待つんだ。
今日は学校にも来ていたし、きっとお店にも…。
『失礼します…』
ガラリと重たい体育館のドアが開いた。
その声に聞き覚えがあり、そちらを向くと、そこに立っていたのは夏目さんだった。
なんでここに?
誰かに用事?
俺だったりして。
なんてことを考えていたら、
「あだっ…!」
「ボーッとすんな!」
夜久さんのボールが降ってきた。
『あ、優生!これ教室に置きっぱだったでしょ』
「わっ、ごめん!ありがとう!」
そう言って夏目さんは芝山にタオルを手渡していた。その2人の姿は、仲良い以上の関係に見えてしまった。
夏目さんは芝山に手を振ると、体育館の扉を閉めようと手をかけた。
俺がずっと見てしまっていたのに気付いたのか、こちらを向くと夏目さんは、ひらりと手を振った。俺も軽く振り返すと、夏目さんは笑って扉を閉めていった。
「なんだ?今の知り合いか?」
『同級生なんすよ…』
俺は暫く夏目さんが出ていった扉の方を見つめていた。
ぼーっとしすぎて夜久さんにボールをぶん投げられたのは言うまでもない。
「は〜あ……」
今日は暇だった。いつもよりもずっと暇で、俺はすることも無くカウンターに突っ伏しながら携帯をいじり続けていた。
途端に、カランコロンカランと店の扉が開く音がした。俺はだるそうに「いらっしゃっせ〜」と言って顔を上げると、そこにはいつも来る彼女がいた。
『こんにちは』
彼女はそう言って微笑んだ。
やはり、学校で見る夏目さんとはどこか雰囲気が違った。
「こ、こんにちは!」
慌てて立ち上がって挨拶を返す。
彼女はふふっと控えめに笑って、マカロンを選び始めた。
『あっ、そういえば!』
彼女は前傾にしていた体を起こし、こちらを見た。
『今日、お姉さんはいらっしゃらないのかしら?』
「あぁ、ネーチャンなら奥に…。用があるなら呼びますけど…」
『あぁ、いいの!この間の試作品、とても美味しかったですとだけ伝えて欲しくて!』
やっぱり彼女は夏目さんで間違いない。
じゃあどっちが本物の夏目さんなんだ?
ーー
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作者名:泡姫 | 作成日時:2021年9月8日 20時