苦い【2】 ページ3
私はこのお店の定休日以外は毎日マカロンを食べに来ている。
今日もお気に入りのお店の、お気に入りのマカロンを、お気に入りの席で。
ここのマカロンはどこのマカロンよりも美味しくて、サクサクした食感なのに口に入れたらとろけるような感覚。クセになる美味しいマカロン。
このお店の名前は「BitterSweet」
意味は「ほろ苦い」
私のしている恋を的確に表現している言葉。
私の片想いの相手はこのお店の息子さん。
よくお店番をしているのだけれど、まだここでは話したことがない。
彼はきっと、私が同じ学校の同級生だとは気付いていないだろう。だからこそ一言だけでいいから声をかけてみたい。
「灰羽君だよね？」
その一言でいい。
けど、まあ考えてもみれば私はここに制服で来たことも無いし、灰羽くんとはクラスが違うから関わりもあまり無い。
そりゃ気付くわけないし、私のことなんか知らないかもしれない。
まあ普通気付かないか。
学校と普段とじゃ雰囲気も違うだろうし。
「お嬢さん、ゆっくりしてってちょうだいね〜！」
「ありがとうございます！」
そう言ってお母さんが出ていった。
今ここには私と彼しかいない。
あれ、これって話しかけるチャンス…？
私は少し様子を見つつ灰羽くんの傍に寄っていった。
『あ、あの…』
あれ、灰羽くん寝ちゃってる
そうだよね。灰羽くんはバレー部で、今日も部活だったもんね。
私は
【ごちそうさまでした。】
と書いたメモを残してお店を出た。
明日の定休日と明後日の彼が居ない日で、2日はお店で会えない。
会おうと思えば学校でも会えるのに、学校での夏目Aと普段の夏目Aが違うことを知られるのが少し怖い。
私って臆病なんだね。
あのお店はこの辺りでは人気だが、私はいつも少し遅めの時間にお邪魔する。
けど、品薄にはなっていないし、私の好きなマカロンはいつもある。不思議なものだな。
まるで、誰かが
「もっとここにいて」
と、私を引き留めているみたいに。
またくるね、灰羽くん。
ーー
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作者名：泡姫 | 作成日時：2021年9月8日 20時
