甘い【10】 ページ11
「どっちが本当の夏目さんなの?」
気付いた時には声に出ていた。
しまった、なんてことを聞いてしまったんだ。
ほら、彼女も驚いた顔をしている。
「ご、ごめんなさい!今のはその…」
『どっちも本当の私だよ』
彼女はまたマカロンを眺めながらそう言った。
「それって…」
『今日は…ショコラとシトロンをください』
「は、はい…」
彼女は俺の言葉を遮って注文した。
俺は彼女の注文通りにマカロンを取り出し、会計を済ませた。
彼女はいつも通り、カウンターからすぐ側の席に座った。
『私、普段はこの通りあまり明るい雰囲気じゃないでしょう?』
彼女が話し始めた。
俺は黙って聞いていた。
『だから、あまり友達が出来なくて。高校では友達を作るために、頑張って明るい女の子をやってるの。地味とかガリ勉とか言われ慣れてるけれど、高校でくらいは普通の子でいたかった』
彼女はそう言うと、マカロンを一口食べた。
『そのギャップに疲れて悩んでいた時のこと。このお店のことは知っていたけれど、入ったことはなくて、でも中に居眠りしている灰羽くんが見えた。私は何故か惹かれてこのお店に足を踏み入れた』
「それって…」
それは、忘れもしないあの日のことだ。
俺が彼女に一目惚れしたあの日。
〜
お店のドアが開く音がなり、ふわりと暖かい風が吹いてきた。
居眠りをしていた俺が目を開くと、そこに立っていたのは綺麗な一人の少女。
『こんにちは』
そういう彼女の声は柔らかく、透き通っていた。
〜
あの日から彼女はこのお店に通っている。
あの日から俺は彼女のことが…。
『今思えば、きっと灰羽くんに一目惚れしたのね、私』
彼女はまた笑った。
俺は彼女の笑顔に釣られるように、彼女の傍へと歩いた。
「俺も、君に……」
『A』
「えっ…?」
『Aって呼んでよ』
「俺、Aのことが好きだ」
『私も、リエーフのことが好き』
ほろ苦い恋が、甘くとろけた瞬間だった。
ーー
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作者名:泡姫 | 作成日時:2021年9月8日 20時