肩越しに ページ31
.
それからはお互い沈黙のまま。
なんだか気不味くて、
ただ流れる景色をボーッと見つめていた。
しばらくして、タクシーがハザードランプを点滅させながら減速した。
あ、着いたのか…
外をよく見ると、見慣れた景色。
そういえばここに来るのは久しぶりだなぁ…
なんてぼんやり思ってたけど、運転手さんにお金を渡すミンソクを見てハッとする。
「っミンソク！ちょっと、お金！」
慌てて財布からお金を出すものの、
「いい」と雑に払われた。
「よくないから！」
それでも負け地とお金を突きつける。
だって払ってもらう義理はない。
「言ったろ、俺んちすぐそこのマンションだって。元々タクシーで帰るつもりだったし」
「でもっ！！」
私の大きな声に、お釣りを数える運転手さんの手が一瞬止まる。
「うるせ…また借りとか思ってんだろ。どうせ払う金だしいいんだよ」
「だって私がっ、」
「あーうるせー。うるさい荷物を乗せたもんだ」
うるさい荷物って！
支払いを済ませるとさっさとタクシーから降りるミンソクに、急いで財布をしまい、追いかける様に慌てて降りた。
「ねえミンソク！せめて割り勘に…うわぁっ！」
思わず変な声を上げたのは、
さっさと降りたミンソクが、何故か歩き出さずに立ち止まっていて…
予期せぬ動きに、私はそのままその背中に突進することになってしまったから。
「〜〜っ！ちょっと、なんで立ち止まんの！」
ぶつけた鼻を抑える。
私が話しかけても、反応がないミンソクに引っかかるものを感じ、ねえ、と一歩踏み出す足。
だけど、ミンソクの横に並ぼうとした身体は彼の手によって阻止される。
「…みんそく？」
後ろから声を掛けるけど返事はない。
黙ったままで明らかに不審な彼の視線を漠然と追った。
私よりは高いけれど、決して長身ではないミンソクの、肩越しから見えたのはヨンスが住むマンションだった。
もう23時半の暗い中、ライトアップされてやけに明るいエントランスの前には、コンビニの袋をぶら下げた長身の男性と、小柄な女性。
「………っ、…」
私は一瞬、息をするのも忘れ、
ただ、その一点だけを眺めた。
ミンソクと私が動けずにいる中、
男の人がエントランス前の喫煙所に設置してある灰皿に近づき、その後ゆっくり踵を返すと、女性の肩を抱きながらマンションに入って行った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2676人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エリ(プロフ) - こんばんは。このお話が大好きで何回も読ませて頂いてます。しうちゃんのお部屋、公開されて真っ先に思ったのがマリアージュの部屋だ！と。しゅしゅさんまた続編書いていただけませんか？笑 ほんとに好きなんです。待ってます！ (2019年5月4日 0時) (
レス) id: 0581c9356e (このIDを非表示/違反報告)
むあ??(プロフ) - 久しぶりですこんなに泣いたり笑ったりしながらお話読んだの。本当に感動しました。キュンキュンしたし何より幸せでした。素敵な時間ありがとうございます！！ (2018年11月5日 20時) (レス) id: bff18baa55 (このIDを非表示/違反報告)
しゅしゅ(プロフ) - ひつじさん» 寝るためだけの家なのでリビングは寛げないですが、ミンソクのベッド、最高級です…おふっ(お願い寝かせて)ぐったりですよね、二人共…。明日からどうなるやら…。引き続き読んでいただけますように…(^^) (2016年9月8日 10時) (レス) id: 93830427c7 (このIDを非表示/違反報告)
しゅしゅ(プロフ) - yumiさん» yumiさん初めまして(^^)作品読んで下さりありがとうございます。…ひぃっ…！！ハワイアンシウミンに会ったんですか…？！しゅ、しゅげえ(拝)そうなんです、しうちゃんただ歩いてるだけなのに宇宙一かっこいいんですよね(？)引き続き、楽しんでいただけますように…！ (2016年9月8日 10時) (レス) id: 93830427c7 (このIDを非表示/違反報告)
ひつじ(プロフ) - 寛げないリビング…予定外の流れ弾…（笑）わかり易過ぎる位の 表現ですね。二人とも ぐったり疲れた心と体を 休めて欲しいですね。ミンソクのベッド 寝心地いいだろうなぁ…♪ (2016年9月7日 10時) (レス) id: 6fa124c712 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゅしゅ
| 作成日時：2016年8月30日 22時
