ねえ、お願い。【歌い手】 (ページ29)

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28話ページ29

なんせ上京してきてすぐで、迎えに来てなんて頼める人間などいない。

会社戻る？いやでも、早退するって言っちゃったし。

悩んだ結果鞄からスマホを取り出すと、すーっと連絡先欄をスクロールしてみる。うん、いない。

「あ"ーどうしよ…」

思わず声が漏れでる。

スマホの画面は連絡先欄の一番下を映していた。

「…あ」

【相川真冬】【一ノ瀬彼方】

ご丁寧にフルネームで設定してあるそれは、他のどの連絡先よりも目立っていた。

prrrrrrr…prrrrrrr…ｶﾞﾀｶﾞﾀｯ

思ったよりも早く、2コール程で繋がった。すぐ後で、なにやら崩壊音。

『あ、もしもし、A？』

聞こえてきたのは、眠たそうな彼の声。

「…え？彼方さん？」

疑問が生まれるのも当然、私がかけたのはまふくんだったから。

『あー…いや、お前からかかってきてコイツが暴れるから、小指ぶつけて唸ってる。』

「…なるほど…」

少し意味がわからないが、今は迎えのことだ。

「あのー、彼方さん」

『ん？』

「えーっと、迎え来ていただけませんかね、えへへ」

『え、会社は？なんかあったの？』

「それがですね、ちょっと体調が悪く『は、ちょっとまってすぐ行く』」

勤務先はあらかじめ教えてあったから、心配はないけれど。

…焦りすぎじゃないですか、彼方さん