ねえ、お願い。【歌い手】 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:4,609 hit

10話ページ11

暫く走って、彼が足を止めた。急に止まるもんだから、彼の大きな背中にぶつかってしまった。

「ここ、俺ん家です。」

見えたのは、大きなマンション。うわ…家賃高そう。一番最初に思ったのはこんなこと。いかにも私らしい思考で嫌気がさす。

次に、もしかしてこの人は有名な人なのでは、という思考が脳裏をよぎる。

けれどここまで来て引き返すのは気が引けるし、失礼だろう。

「じゃ、行きましょう」

またもや腕を掴まれ、そのままエレベーターに乗る。最上階とまでは行かないものの、かなり上の方で止まる。

気づかれないように小さくふぅ、と息を吐く。

既に降りて待っていた彼に駆け寄り、無言のまま歩く。

やがて足を止め、ついた扉の前で緊張感がこみ上げる。

大丈夫、これはお返しだ。助けて貰ったお礼。そうだ、お礼。

言い聞かせることですこし気持ちが軽くなった気がした。

ガチャ、という音と共に開く。すると彼が

「ち、またいる…」

と一言。

「だ、誰かお客さんいるなら私帰りますよ！」

これはチャンスだと思いそう伝えるが、帰ってきたのは予想外の言葉。

「いや、大丈夫です。アイツにも紹介したいんで」

.

…はぁっ！？