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「いのちゃん、」


だいちゃんの声。
そう呼ばれて、焦りとか気まずさとかで、鼓動が早くなる。


「覚えてる?」


え、二人とも知り合いですか?って知念くんが聞いて、幼馴染みだよってだいちゃんが答えて。隣で、幼馴染み?と聞き返す山田。


「覚えてるよ、だいちゃん。」


あぁ、なんでこんなとこで。
よりによって、なんでだいちゃんに会っちゃうかなぁ……


「だいちゃんのことだから、10年前だし忘れてるかと思ったよ、」

「いや、幼馴染みだもん、さすがに忘れないって! ってか、いのちゃん全然変わんないね!」

「だいちゃんは相変わらずちっちゃいよねぇ。」

「うっせ! まだ伸びるし!」


張りつめた空気が、だいちゃんの声で一気に和らいだ。

仲良いんですね、と知念くんが笑って、あぁそういえば、と口を開いた。


「午後、僕たち休みなんだけどね。4人で一緒に飲まない?」

「いいね、楽しそう! ここで飲もうよ、料理は俺作るね。」

「え、山田って料理作れんの? すげーな、お前!」


一気に盛り上がる知念と山田と大ちゃん。

……先に帰らせてもらおう。
そう決心するおれの心を見透かしてるのか、だいちゃんが太陽のような、変わらない笑顔でこちらを見た。


「いのちゃん、楽しみだね!」


あぁもう、これはだめだから。
高校時代におれが好きだっただいちゃんの笑顔そのもの。


惚れた弱みっていうの?
まだまだ恋の余韻は消えてなかったみたいだ。


「だいちゃんと一緒なの、久しぶりだしね。おれも楽しみ。」


よかった、って笑うだいちゃんはおれの告白のことなんか忘れて、高校時代に戻ったみたいだ。


ねえ、覚えてる、だいちゃん?


声に出せない言葉を作り笑顔に変えて。痛んだ胸はもう恋なんかじゃないと思った。

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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年6月28日 21時

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