冒険の傷痕:18 ページ20
「やったあ、出来たよ!」
焚き木から少し離れた場所にある、鍛治台の方から聞こえるイレブンの声が、ふらついた私の意識を現実に戻した。
カミュがイレブンに渡したレシピは剣と短剣のものだったようで、鍛治台からこちらに駆け寄ってきたイレブンはその二つを握りしめていた。
「ほら、これとこれ。どう?」
「…へぇ、初めてにしちゃ上出来じゃねえか」
三人でその剣と短剣を覗く。確かに、さっき説明を聞いて初めて作ったものとは思えないほど、その剣と短剣は上質なものだった。
「やっぱりイレブンに向いてる、ってオレの見立ては間違ってなかったな」
「押し付けたかっただけでしょ」
「うるせぇよ」
「今度レシピ見つけたらまた作るね」
焚き火を囲んで談笑する。火から伝わる熱が心地いい。人とこんなに温かい話をしたのはいつだったか。酷く凍えた身体が温まったと感じたのは、いつぶりだろう。
イレブンは、生まれ故郷での話をしてくれた。村の豊かで鮮やかな自然の話。母親や幼馴染と作った食べ物の話。村の人達の、優しい笑顔の話。
イシの村の話をするイレブンの顔は子供のようにきらきら輝いて、心の底から村のことが大好きなんだと伝わってくる。
自慢できる故郷があるのはいいことだ。
人はそれで優しくなれる。
自分が誇れると思うものがあるだけで、人はそれを守るために生きようとする。
時にはそれに裏切られることもあるかもしれない。でも、自分が何かに向けた優しさは必ず返ってくるのだと、そう誰かが言っていた。
羨ましい、と思ってしまった。
勇者というだけで、何も知らないのに悪魔の子呼ばわりされるこの少年でも、誇らしげに語れる故郷があるという事実が、羨ましい。
いっそ、悪魔の子などと蔑まれるのは私でよかったのに。勇者なんて使命がなければ、イレブンは大好きな村の人達とずっと暮らせたのに。
何より、こんな事をこんな時に考えてしまう私の方が、よっぽど悪魔の子だというのに。
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千織(プロフ) - チロル/CHIROLさん» チロルさん、初めまして!有難いコメント、とても嬉しいです…!これからも精進していくので、見守って頂けたらと思います! (2018年11月3日 7時) (レス) id: 43a89afe6e (このIDを非表示/違反報告)
チロル/CHIROL - はじめまして!ドラクエファンなので、ドラクエの夢小説を書く人がいるのか!と驚き拝見させていただきました!掴みにくい世界感を表現されていて千織さんはすごいと思いました!これからもがんばってください! (2018年11月2日 22時) (レス) id: f7aec74604 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千織 | 作成日時:2018年10月29日 20時