鯉登専務！職権乱用はいけません！ (ページ5)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:7,650 hit

第2話ページ5

.

「それでそれで？専務ってやっぱり我儘なの？」

『いやもうそういう次元じゃない！』

「A、おまえちょっと痩せたんじゃねえか？」

『えっ嘘まじ！？干からびたのかな…』

世間ではこの日を、この瞬間を、華金と呼ぶ

私と時重と百之助は駅近くの
安いウマい狭い！が売りの大衆居酒屋に訪れていた

社畜共に与えられた束の間の休息

ガヤガヤとした騒がしさ、くたびれた大人の放つ熱気、安くて薄い発泡酒

そうそう、ここが私のアナザースカイ

日々の疲れを洗い流すように、グラスに半分残ったビールを一気に飲み干した

ほんと、大変な2週間だった

鯉登専務に辞令を出された日を思い返す

「専務直々のお願いとは言え…寂しくなるよ」

鶴見部長のデスクの前で、私はオイオイと泣きじゃくっていた

『部長ぉ〜イヤです行きたくないぃ〜〜ｳｯｳｯ』

「A…！私も離れたくないよ…！」

ガシィッ！と鶴見部長の意外と逞しい胸板と腕に身を包まれる

えーん！部長！だいすき！離れたくない！！

鯉登専務の下で頑張れる気しないよぉ…

『うう…部長…

私がいなくても和田本部長に嫌がらせ…頑張ってくださいね…』

「ああ、生き甲斐だからね…」

どんな生き甲斐だ

和田本部長そろそろハゲるぞ

「時間は少ないが…引き継ぎ、してくれるね？」

『ぐすっ…ハイ…』

ヨシヨシと、鶴見部長が私の頭を撫でる

何をどう足掻いても、私が移動になることは変えようのない事実だった

鯉登専務に直談判しても聞いてくれない、何を言っても「決定事項だ」と返すから取り付く島もなかった

部屋の外では営業部のみんながこっそり覗き見してる

鶴見信者の時重がガラスに爪をキィキィ立てて歯軋りしてる様子もバッチリ見えてる

あんたたちバレバレだからぁ…

移動は来週

普通ならありえない期間だ
それまでに私の仕事引き継ぎと、デスク整理

想像通り、ハードでしんどいし正直気を抜いたら魂が口から出ていたと思う

休日出勤もしてなんとか間に合わせたぐらいだ

移動前最後の日に皆がささやかな送別会を開いてくれたんだけど、後輩の杉元くんはぐすぐす泣いてなかなか手を離してくれなかった

Aさん行かないで、やだよ、専務のこと消したい！

なんて言うからゾッとしたのを覚えてる