四畳半トリップ~《アズカバンの囚人》起~【ハリー･ポッター】 (ページ24)

今日:9 hit、昨日:14 hit、合計:18,301 hit

２４ページ24

〇

明らかに具合が悪かった私は額から流れた冷や汗を拭って、立ち上がろうと座席に手をついた。

ロ「大丈夫かい？君」

『あ、えっと』と言った私の顔が余程具合の悪そうな顔をしていたのか、顔色無しの私にロンは手をかして、座席に座らせた。

私は────どうして声を聞いたのだろう。

誰の声なんだろう。

誰があんな哀願の叫びをあげていたのだろう。

でも、私は知っているはずなんだ。

この約二年ばかりの私が知っている。

─────約二年ばかり？

それって、ほんとうに？

来し方二年、私はそんな声を記憶しているはずがない。

私は何なんだ。

私はA･ブラック。

A･ブラックとしてこの世界にいて、本当の私は、本当の名前は─────

『あれ、何だっけ……』

全身を巡る冷や汗が汗腺から噴き出し、私は顔を少しばかり引き攣らせた。

パキッという大きな音がしたので皆んな飛び上がり、ルーピン先生が、大きなチョコレートの塊を割っていた。

「さあ」と、先生が私に特別大きな一欠片を渡しながら言う。

リ「食べるといい。気分が良くなるから」

半ば強引に私の手に押し付け、受け取りはしたがそれを食べようとする気すら起きなかった。

運転手と話してくると、告げた先生はコンパートメントから去り、数分後にハリーが目を覚ました。

ハリーも私と同様にぼんやりと、腑に落ちない何かを心の中に宿している。

『あー、ちょっと外の空気吸ってくる』

気分が悪いや、と付け加えた私は平気な顔をしてコンパートメントを出て、すぐそこの汽車の連結部分に出て、外の空気を吸う。

長い深呼吸をした後に、足元には妖怪のような顔をしたフェレットがいた。

私は咄嗟に私にしか見えない地獄の使者なのではないかと疑ったことを明言しておく。

私はそのフェレットを見つめながら、貰ったチョコを口の中に放り込みすぐに飲み込んだ。

手の温かさで溶けたチョコが手についていた。

風が寒く肌をうちつけ、ふわふわなフェレットは暖かそうに見えて腹が立った。

『あっちにいってて』

ト「主人が悩んでいたら、そばにいるのが従者ってものじゃないのかね」

リドルはフェレットから今度は、自分の十六歳の姿へと化けて、私の隣に立ち、壁に寄りかかった。

冷たい風が打ち付けているというのに、リドルの髪や服は一切揺れていなかった。

『うるせいやい、別に悩んでなんか─────』

ないとは言いきれなかった。