四畳半トリップ~《アズカバンの囚人》起~【ハリー･ポッター】 (ページ21)

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ドアに近いところに居たハリーが立ち上がって、通路の様子を窺っている時、私は『あっ！』と声を放った。

私の脳裏を、来し方二年のだらしのない生活が走馬燈のように流れた。

棘だらけの過ぎ去った過去を思い出しては、繊細なハートを鷲掴みにされ、私は「ぎゃあああ」と叫びたくなったが『あっ！』という言葉だけで耐えて見せた。

私はこれまでこうなることを知っていながら、ディメンターに対する対策を一つもとっていない。

あろうことかこの状況になるまでディメンターという存在すら忘れていたのだ。

忘れていなければディメンターの撃退法を習得するという点について、私は吝かではない心持ちを持っていた。

しかし────習得していない。

これはもう原作を知っているもの失格ではなかろうか、私はあのディメンターの恐怖を体験せねばならないのか。

悶々と来し方二年の積み重ねがだるま落としのように叩き落とされ、叩き落とされたそれは無価値なものとして私の中に残る。

ハー「何よ、A」

私の今さっきの行動に不審を示した彼女は私を真正面から見て、早く言ってほしそうに口の端をピクピク動かしている。

彼女は七転八倒の孤独な心理的暗闘を演じている私を怪訝そうに眺めていた。

『あ、いや』と濁した私にハーマイオニーは苛立たしげに私を睨んでいたが、私はそんなことよりもディメンターのことで頭がいっぱいだ。

すると列車がガクンと止まった。

どこか遠くのほうから、ドサリ、ドシンと網棚からトランクが落ちる音が聴こえて来る。

そして、何の前触れもなく、明かりがいっせいに消え、周囲が急に真っ暗闇になるのだ。

ロ「いったい何が起こったんだ？」

「痛ッ！」と、ハーマイオニーが呻くあたり、原作通りであることは間違いない。

ハー「ロン、今のは私の足だったのよ！」

私は深く座席に座り込み、この後どうするのかを逡巡していると膝の上のフェレットが嫌に大人しく不気味な笑いを浮かべているのを見て、私は叫びたい衝動に駆られる。

ハ「何があったんだろう？」

ハリーはコンパートメントの扉から覗いていた体を手探りで元の座席へと戻り、私の隣で落ち着いた後、ぽつりと洩らした。

ロ「あっちで何かが動いている……誰かが乗り込んでくるみたいだ」

ハ「線路の真ん中で？」

「ちょっと待って────A、いるの？」と暗闇の中でハーマイオニーの声が響く。

『いる』とだけ伝えた私の声が緊迫していたのか、三人は身を寄せあった。