【HQ】ザル女。【黒尾鉄朗】 (ページ2)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:338 hit

2杯目ページ2

女はげっ、とした顔をして下を向く。
海が、知り合いなの？と俺に聞いてきた。

「のぶちゃん、黙って！」

のぶちゃんだぁ？と俺は心底不思議な顔をして
その女と海を見つめた。
すると海は苦笑いして、常連なんだ、と言った。

俺も常連なのだが、この女とあったことはねぇな。
一席あけて座ると、俺は生とだし巻き玉子を頼む。
はい、というと海は手際よく動き出した。

隣の女はジョッキを両手で掴んで、ちょびちょびと飲んでいる。
結構飲みすすめてるように見えるが、顔色が全然変わらない。

「…何、見てるんですか。」

じと、っと見つめ返される。
ごめん、というとふん、とそっぽを向かれた。

可愛くねぇ女…！！！

でも、ここでグイグイいくのは学生時代のくせ。
わざわざひとつ近づいて、自己紹介する。

「おれ、黒尾鉄朗。音駒高校ってとこの近くの大学通っててバレーやってるんだ。」

乾杯し直さない？と海が渡してくれたジョッキを掴んで微笑んだ。
すると、女は小さな声で自己紹介をする。

「…朱志A。」

専門、と一言いうとあとちょっとしかないジョッキを掲げてくれた。
かんぱい、と心地よい音が鳴る。

朱志はいっきに飲み干すと、のぶちゃんお代わりといって差し出した。
飲みすぎじゃない？と海。
え？これ2杯目じゃないの？という目で見ると、
朱志はいった。

「私、酔わないの。」

ザルだから、と無表情で頬ずえをついた。
いいからー、と海に急かす彼女はそれはそれはかっこよくて。

心底惚れた。

なんだこれなんだこれ、と痛む心臓を手で抑えて下を向く。

黒尾鉄朗、20歳。ザル女に惚れた。

そこから何とかLINEを聞き出し、次に飲む約束もした。
あの合コンは友人の誘いでいったが、思ったほど呑めず男もつまらなかったので途中で退出した、とのこと。
帰り際に、またね、と微笑んだ彼女は相当飲んでたのにまっすぐ歩いていて、姿勢もよかった。

酔わない女に酔ってしまったな、なんて海にいうと
うまいね、と優しく拍手してくれた。
…なんだかこっちが恥ずかしいわ。

その次の日に大学に行くと、友人にひどく泣きつかれた。
理由を聞けば、女子全員は俺目当てできていて、
俺がいないなら帰るとそのあとすぐ解散したらしい。

ごめん、と謝れば、お前機嫌いいなと言われた。

まぁ、好きな人できたからな。

少し上機嫌で、大学の道を歩いていった。