伍拾肆──こちょうらん ページ9
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美しい星々がひしめき、時間がゆっくりと流れる。Aと錆兎が寧時のもとについたのは、午後九時を回るところだった。
「師匠!」
Aがさけぶ。落ち着きなく貧乏ゆすりをしていたその男はぱっと顔を上げ、ああ、と声をもらした。
「……本当に……本当にAちゃんなんだな?」
これが夢でないことを確認するかのように、一歩一歩その小さな姿に近づく。その影はふんわりと笑った。
「はい、本当に、久楽寧時の弟子のAです。帰るのが遅くなってすみません」
「……ああ、ああ! Aちゃん! よかった、本当によかった!」
そう言って涙を流したと思ったら、一転、馬鹿野郎、と声をあららげた。
「俺がどんだけ心配したと思ってる! もう、この半年間どれだけ苦しかったか、嘆いたか! また大切な人を失った、しかも自分のせいでって、どれだけ責めたか!」
体裁なんて関係ない。ひたすらに自分のどうしようもない気持ちを吐きだす。それに対し、Aはただ一言、
「ただいま、師匠」
寧時は目を見開いた。そして、微笑んだ。
「ああ、おかえり。頑張ったな」
で。寧時はしきりなおし、見覚えのない少年へ視線を投げた。
「てめえは誰だ?」
圧にうろたえながらも、錆兎は返す。
「錆兎です。異型の鬼に喰われそうになったところを、Aさんに助けていただきました。本当に感謝してもしきれません。そして、ごめんなさい」
頭を下げる。Aを見ていたせいか、知らぬうちに礼儀が身についていたらしかった。
「……へえ、お前のせいで」
そうかそうか、と頷く寧時。意外とすんなり許してもらえた、ほっと胸をなでおろして油断した瞬間、雷が落ちた。
「クソガキ、よくもAちゃんを! 一発殴らせろ、いや一発じゃたりねえ、満足するまでだ! そこに正座あ!」
「「ええ!?」」
なんとか寧時の怒りを鎮めたのは、東にあった星がぐるりと空を横切り、山へ隠れるころだった。
コチョウラン──幸せが飛んでくる、純粋な愛情
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時