漆拾──つゆくさ ページ25
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「錆兎」
──なんだ? だれかが俺を呼んでいる。
「錆兎」
──だれだ、なぜ俺を呼ぶ。
「錆兎」
──夢だろうか、それとも。
「錆兎」
──あ。
「A!」
「……錆兎?」
振りむくと、自分のもたれる木の太い枝に人が座っていた。自分の名を呼ぶ人物の正体は真菰であったのだ。
「真菰、か、はは、夢じゃなかったんだな」
錆兎は昨日のできごと、すなわち死んだ少女が目の前にいることが現実なのだと再確認し、安堵の笑みを浮かべる。それは真菰も同じだった。
「夢だと思ってたのは私のほうだよ。それより、Aって」
「ああ、えっと、A……A?」
真菰は上げられた語尾に首をかしげた。
「相棒じゃないの、錆兎の」
「……A、ああ、A、A。どうして今その名前が」
「錆兎が言ったんだよ。起きるときに」
「俺が?」
頭をかいて、錆兎は笑った。A、ひさしぶりに口にした気がする。すこし前まで毎日のように呼んでいたのに、呼びあっていたのに。
「ねえ、昨日のつづき」真菰が明るく言った。「次は錆兎の話を聞かせてよ。どこでなにしてたの? ここへ来たのは私が死んでから二年経った年末でしょ。それまでどうしてたの?」
錆兎は「ああ」とうなずいて、ふたたび木に背中をあずけた。目を閉じて記憶をさかのぼる。
「そうだなあ、俺が真菰のことを知ったのは、任務地に向かう途中だった。俺の前にAがいて、二人で。頭を殴られたかと思った。もう真菰の笑い声を聞けくなるのかと思うと……」
錆兎はそのときの心情を思いかえしてまたつらくなる。視界がにじんで今にも涙があふれそうだ。
「それからは覚えてないな。いろんな場所を転々として放浪して。どうやってここに来たのかもわからない」
はは。聞こえてきたのはあの軽快な笑い声。
「それは、ごめん。私はここにいるよ」
錆兎ははっとした。そしてその優しさにつられて笑った。
「それに。錆兎らしくないよ」
「え?」
ツユクサ──なつかしい関係、敬われる愛、尊敬
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時