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陸拾捌──きぶし ページ23

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「なんで」
 声は重なった。どちらも意味がわからなかった。錆兎は、死んだはずの真菰が視線の先にいることが。真菰は、死んだはずの自分が錆兎と話せていることが。
「なんで」
 次は木から身をおろした真菰だけが聞いた。確証がほしかった。本当に話せているのだと。自分の声が錆兎に届いているのだと。
「だって、音が聞こえたから」
 錆兎の声だった。あの錆兎の声だった。
「なんで」
 今度は錆兎だけが聞いた。確証がほしかった。本当に話せているのだと。真菰がここにいるのだと。
「だって、だって」
 真菰はその後になんとつづけたらいいのかこまってしまった。生きているから? そんなはずはない。自分はあの日確実に死んだ。では死んでいるから? いや、それはふつうに考えておかしい。真菰はありのままを話すことにした。
「……川を渡ろうとしたの。赤い花がいっぱいに咲いているところ。でもね、川に入ったらなにかが私の体にまとわりついてきて、進めなくて、あれは、あのたくさんの手はたぶん」
 のどがつっかえてしまった。あの手はたぶん、あの鬼のもの。真菰を死にいたらしめた、あの鬼の。
 それを察した錆兎は、真菰を静かに抱きしめた。確かにこの体はここにある。二人ともその事実をゆっくりと噛みしめて、涙を流していた。だんだんと強まる雨が錆兎の気持ちの高まりを冷やす。
「錆兎、ごめん、もう行かなきゃ」
「……どこに」
 真菰の言葉に意図せず怒気をふくんでしまったのは、彼女を失うことへの不安と恐怖からだ。
「戻らないといけないの」
「だからどこに」
「あれがなんなのかは私も知らない。でも戻らないと。明日の朝、また来てよ。待ってるから」
 真菰は錆兎のうでを自分から離し、うっとりするような霧のたつ森へ姿を消した。それを認めたのか、雨は桶にすくわれるようにしてあがる。残された錆兎は、体温を感じられない、しかしあたたかい抱擁を思いだして、ひとり木にもたれた。


キブシ──出会い、待ちあわせ

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設定タグ:鬼滅の刃 , 錆兎 , 長編   
作品ジャンル:恋愛
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時

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