陸拾陸──はなにら ページ21
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「……え?」
雪で着飾った風が宍色の髪で遊びながら吹きすぎていく。年越しの準備がめだつ十二月下旬、日がしずみきるすこし前。任務へ向かうべく屋根の上を駆ける琥珀のもとへ手紙が届いた。
差出人は鱗滝左近寺。立ちどまって三つ折りを開く。前を行くAも振りかえった。
その内容は──真菰が最終選別で命を落とした、という報告であった。琥珀は何度も何度も手紙を読みかえす。
「真菰が、なんて?」
「琥珀」
琥珀の様子から事態をさとった瑪瑙は、歩みよって相棒を呼んだ。
「真菰がなんだって?」
「聞け、琥珀」
「死んだ? なんだそれ?」
「聞けって、俺の目を見ろ」
「……あれ、わからない、わからないわからない」
「──錆兎!」
Aの強い呼びかけに、錆兎は肩を上げた。面をずらし、真っ青な顔を露にする。応じるようにAも素顔を冷たい空気にさらした。
どちらも、なにも言わなかった。みだれた呼吸。それだけだった。
「日ガシズム。任務地ヘ向カエ」
ラズリが背を向けたまま言葉を落とした。今回ばかりはラピスも押しだまる。
鋭い夕陽が雲のすき間から、雪にまぎれたしずくを弾いた。錆兎の涙らしかった。
「錆兎、とりあえず──」
「最悪だ」
Aの呼びかけをさえぎって、錆兎は姿を消した。ラピスは迷うような視線を左右に置いたのち、主の影を追いかけた。
「……行こう」
静かな夕暮れだった。
「では、水狐としての活動は一時休止するんだね」
耀哉の言葉にうなずいたのは、Aひとりだった。彼女の鼻を赤く染めたのは、冷たい空気か、それとも。
いつもとなりにいるはずの唯一の相棒、錆兎はというと、とある森にいた。ヒュウウウ、息をしたかと思うと、まわりの木々が一気に倒れる。
「……ああああ、ああ!」
悲痛なさけび。頭をかかえ、ひざをつく。もしもあのとき、自分が手鬼を斬っていれば。真菰は師匠を敬愛していた、あの鬼の言うことにがまんならなかったのだろう。もしもあのとき、斬っていれば。同じことばかり考えてしまう。自責の念はずっしりと重く、錆兎にからみついた。
ハナニラ──卑劣、愛しい人、耐える愛、悲しい別れ
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時