陸拾弐──紅玉髄 ページ17
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日に日に厳しくなる冷えを感じる午前三時。二つの影がすさまじい速さで山から山へと駆ける。
彼ら──Aと錆兎が水狐となってから一年と半年が経った。天才能ある者が努力をした結果、実力は見違えるほどに上がり、一般階級でいえば
「彼が冨岡義勇か」
くだけた言葉遣いにすっかり慣れたAが、顔の向きを変えずに訊く。
「そうだ、俺の親友。しかし俺の着物の柄の羽織だなんて、複雑な気持ちがするよ」
また背が伸びた。Aよりも二十センチ近く頭の高い錆兎が、低くなった声で答えた。
「それにしても大きくなっていたなあ。あいつ、子供のころは泣き虫だったんだ」
しみじみと過去を振りかえるように言う錆兎。
「ずいぶん立派に戦ってたじゃないか」
「やっぱり生きているってことを伝えなくて正解だな」
にやりと笑ってスピードを上げた。
「おい、待て! そんな速さじゃすぐに疲れるぞ!」
「俺は大丈夫だ、瑪瑙はゆっくりでもいいぞ?」
「かっこつけやがって、鬼に刻まれても知らねえからな!」
Aの口がどんどん悪くなっていることについては、目をつぶってもらおう。
〈水の呼吸・壱ノ型 水面斬り〉
〈水の呼吸・肆ノ型 打ち潮〉
〈水の呼吸・捌ノ型 滝壺〉
〈水の呼吸・弐ノ型 水車〉
ぼこぼこととめどなく湧き上がる泉。ざあざあと一帯に降る豪雨。それらが離れては交わって、それはそれは美しかった。
しかし、次の瞬間にはぼとりぼとりと鬼の頸が落ちてくる。まばたきの間になんとも恐ろしい状況になってしまうのだ。
「二匹」
「三匹!」
くそっ、負けた! と頭を抱える錆兎。Aはスキップまでして上機嫌だ。複数の鬼がいる任務のときは斬った数を競う。こうすることで、たがいに負けたくない、と切磋琢磨できるのである。
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時