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肆拾陸──りむなんてす ページ1

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「飽きたあああ!」
 大の字に寝ころんだAがそう叫んだのは、自給自足生活が始まってから一ヶ月。
 藤襲山は、七日間で剣士をふるいにかけるために作られた会場である。つまり、七日間を生きぬくための最低の物しかない。洞窟のすぐ近くに川が流れているので水には困らないのだが、季節が季節のため食料は果物や木の実と山菜のみ。まだ一週間しか、二週間しか、三週間しか……となんとか我慢していたが、もう限界だ。
「いいかげん肉が食いたい!」
 錆兎もちまちま食べていたフユイチゴを五つひと息に放りこんで倒れた。
「そういえば」Aが顔だけ錆兎のほうに向ける。「錆兎の師匠って、どんな人?」
 昼は食料調達、夜は交代で見はり。鬼は合わせて三匹ほどしか出なかったが、六時間ずっと気を張っているのは疲れるものだ。最近になってやっと落ち着いてきたので、こうやって雑談をする時間ができたのである。
「鱗滝さんっていうんだ。元水柱で、言葉は少ないけどすっごく弟子思い」
 錆兎がまぶたの裏にその姿を思い浮かべながら言った。Aは寧時との会話を思い出した。
「聞いたことある。穏やかな小川みたいな呼吸を使うんだって、うちの師匠が言ってたよ」
「その師匠は?」
 訊かれたので、Aは苦笑する。
「うーん、鱗滝さんとは正反対かな。久楽寧時って名前なんだけどね。思ったことはズバッと言うし、教え方も厳しい。でももちろん弟子思いで、師匠の作るご飯は本当においしいんだ!」
 その後、二人は兄弟弟子について話す。義勇は人見知りなんだとか、村田さんは椿油のおかげで髪の毛がさらさらなんだとか。それから、おたがいの身の内についても。錆兎は捨て子で、真菰という女の子とともに拾われたそう。Aは? と訊かれ、言うかどうか迷ったが、容易に話してしまうのはよくない。秘密、とごまかした。
 と、Aの視線は錆兎が肌身離さずつけている狐のお面に向かう。それに気づいたのか、錆兎は気になる? と笑って起き上がった。
「厄除の面っていうんだ。鱗滝さんが俺と義勇に作ってくれた」
 外して手渡してくれるので、Aも起きあがって受けとり、見てみる。手づくりとは思えないほどつややかでなめらかな手触りだ。
「かわいい」
 そう口にすると、錆兎は誇らしげに胸を張った。
「当たり前だ、鱗滝さんが作ったからな」
 冷たい吹雪が吹きあれる中、小さな洞窟からは暖かな光がもれていた。


リムナンテス──愉快な気分

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肆拾漆──おおかめのき→



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設定タグ:鬼滅の刃 , 錆兎 , 長編   
作品ジャンル:恋愛
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時

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