優しさなんて本当は凄く簡単なものなんだ。 ページ20
モゾリ、と鏑丸が起きたのか動き出す。Aがおいでと腕を伸ばし鏑丸がその手に絡みつく。
『君は優しいからね、さっきも泣きそうだったし。少し心配になっただけですよ』
は、と思わず呟いてAを見る。有り得ない、有り得ない。その言葉は俺に使っていいものじゃない。
「俺は優しくなどない」
『いや、優しいよ伊黒さんは』
優しい。その言葉に歯切りする。やめろ。俺はそんな人間ではない。
「何がわかる?何が貴様に分かる?俺のことも忘れているくせに」
しまった、と思った。傷付けたいわけじゃなかった。記憶を失ったのもこいつのせいじゃない。
ただ俺に優しいと言われる資格などなかった。
『いや、君は優しいよ。君が思っているより、ずっと』
言うと、Aが視界から消える。屋根から落ちて行く。馬鹿、死ぬ気かっ。
させない、と強く腕を引く。死から引き離すように生へと呼び戻すように腕を引っ張ると、その勢いで屋根の上に伊黒もAも倒れる。
「A、お前‥‥死ぬ気かっ‥‥‥」
案外、漏れ出た言葉は震えてる。肩で息を鳴らす。何故、死のうとする。何故お前のような良い奴が死のうとする。やめてくれ。
伊黒の焦るような声にAは伊黒に両腕を伸ばす。泣きそうな伊黒の感情を包むように。抱き締める。
伊黒は目を見開いた。Aの温かい体温に包まれる。青白い月が二人を照らす。
死ぬ気はないですが、とAは口を開く。
『やっぱり君は優しいよ。今だって、ほら。私を助けてくれた』
そう言ってAは微笑む。滅多に見ない微笑みにまた、伊黒は目を開く。
『実は優しさって過去も未来も関係ないんだよ』
抱き締められたまま、耳元で優しく穏やかな声が聞こえる。
『その人をどう思うかなんだと思う。私は、君を、優しいと思う』
めちゃくちゃだ。だが俺の口元はそれと対象にゆっくりと綻んでいった。
「そうか‥‥」
『そうだよ』
「A、」
そういえば俺がAを名前で呼ぶのは珍しいなと思った。
「ありがとう」
その言葉にAは『私は何もしてないけどね』といって、笑う。
『嗚呼そういえばずっと抱き締めてごめんね』
よっ、とAが俺から離れる。その腕を俺が引き戻し、手を背中に回して抱き締める。Aが首を傾げる。
「すまない。‥もう少しでいいから、このままでいてくれ」
碧の光が差し込む満月の中、一つの恋が花を咲かせるーー。
漏れ出る本音。記憶がない方が良い時もあるから。→←その月は青白い。まるでスポットライトのような存在である。
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ひいらぎ・いろ - 小冬さん» ありがとうございます、いつも小説を書く度に面白いか凄い不安になって、、そう言ってもらえて凄く凄く励まされます!これからも頑張ります! (2021年5月2日 7時) (レス) id: 3d1bfbcbe7 (このIDを非表示/違反報告)
小冬 - とっっても、面白かったです!!もう、夢主の反応とかがめっちゃ面白くていつも思い出して笑っています!!これからも頑張って下さい!! (2021年5月1日 23時) (レス) id: b394ae1541 (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - S_t0606さん» コメントがきたことにはしゃぐ人間はこの世にはいます。(ありがとうございます!)なるほど、、確かに夢主よく宇髄さんといますから、、もしかしたら、、? (2020年11月29日 20時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
S_t0606(プロフ) - 宇髄さん宇髄さん宇髄天元様で落ちお願いします (2020年11月29日 17時) (レス) id: 3664f0360e (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - 氷華さん» まさか続編にいけるとは、、(←亀更新人間)こちらこそ、よろしくお願いします! (2020年11月14日 21時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひいらぎ・いろ x他1人 | 作成日時:2020年11月13日 0時