現実は事実であり、決して自分の理想通りにはいかないものである。 ページ9
耳を突き刺すような鋭い叫び声が聞こえる。その声に一気に顔の熱が醒める。
それは近くの路地から聞こえた悲鳴であった。目が熱い。正気を失った壊れた人間のようにただ一心にそこに駆ける。
いやだ。うそだ。そんなわけない。今までだって今までだって大丈夫だ。まだ間に合う。言い訳じみたことが脳裏によぎり目がちかちかと痛む。
『お隣っ‥‥お隣さんっ!!!!』
狂ったように叫び、路地に足を踏み入れた途端地面に赤い飛沫があるのが目にはいった。それは、誰の飛沫なのか。
『おとなり、さん』
小さく呟いた言葉は空気にのるように、軽く、感情も何もない声だった。お隣に向かって伸ばされ、届かない行き場を失った右は空気をすり抜ける。
『おとなりさん』
もう一度軽く意思のない口は呟く。返事はない。返ってこない。くるはずも、ない。
「ぅ'ーーうぅーーーウグワァァァァァァァァァ」
横で低く獣のように唸る声がし、向くと赤く染まった牙を剥き出しにした四つん這いの鬼に憎しみ目を向けられ睨みつけられていた。
一際大きい唸り声が聞こえて動かないお隣さんに飛びかかる。それが皮切りだった。
どうしようもないことぐらい分かっている。分かっているのに強い衝撃を抑えきれずに無造作に引き抜く、前を見る、足を早めて駆ける、目の前のそこにあるだけの現実を視界いっぱいに広げて息を吐き出す。
目の奥が熱い。熱さで火傷でもしたと思いほどに。手に硬いソレが当たる。
馬鹿だとは思う。それでもそれすらどうだっていい程に大好きだった。
水の呼吸捌ノ型滝壷。
太く硬い肉の感触に、ごちゃごちゃに混ざりきった汚い心の全てがぶつけられる。歯を食い縛って手だけに力が込められる。気が遠くなってくるその時、甲高い悲鳴聞こえ、ぷつり、とどこか艶のある刀が肉を突き通す。
「ウキャアアアアアアアアアアアアアア」
乾いた地面に刀が突き刺さる。それと同じぐらいにAも壊れた人形のように力なく地面につく。
急に周りが静かになった気がした。何も聞こえなくなってしまったかのように。しずかで、まるで世界そのものが死んでしまったかのように。
『おとなり、さん』
Aは震える声でお隣の頬に触れる。眠っているように見えるのにその体温は酷く冷たい。
『お隣さん』
馬鹿の一つ覚えのようにAは乾いた唇でお隣の名を呼ぶ。当たり前のように返事も、この前までなら返された笑顔も返ってはこない。
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ひいらぎ・いろ - 小冬さん» ありがとうございます、いつも小説を書く度に面白いか凄い不安になって、、そう言ってもらえて凄く凄く励まされます!これからも頑張ります! (2021年5月2日 7時) (レス) id: 3d1bfbcbe7 (このIDを非表示/違反報告)
小冬 - とっっても、面白かったです!!もう、夢主の反応とかがめっちゃ面白くていつも思い出して笑っています!!これからも頑張って下さい!! (2021年5月1日 23時) (レス) id: b394ae1541 (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - S_t0606さん» コメントがきたことにはしゃぐ人間はこの世にはいます。(ありがとうございます!)なるほど、、確かに夢主よく宇髄さんといますから、、もしかしたら、、? (2020年11月29日 20時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
S_t0606(プロフ) - 宇髄さん宇髄さん宇髄天元様で落ちお願いします (2020年11月29日 17時) (レス) id: 3664f0360e (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - 氷華さん» まさか続編にいけるとは、、(←亀更新人間)こちらこそ、よろしくお願いします! (2020年11月14日 21時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひいらぎ・いろ x他1人 | 作成日時:2020年11月13日 0時