人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ9)

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また、清光自身も気を使うようになった。

気に入っていたイチゴの香りがする消しゴムも、いつの間にか私の筆箱に入っていた。

1度は離れていた私と清光が再び連むようになったのも、この頃から。

彼の部屋にあった宝物は全て私の部屋に持ち込まれ、自分でも驚く程女の子らしい部屋に変わった。

謂わば清光の部屋が、私の部屋に引っ越したようなものだ。

だから彼は、毎日私の部屋に来た。

彼の趣味に何も言わない私の前だけでスカートを穿き、そして私を同じように着替えさせる。

何処からか覚えた知識でメイクするようになり、ますます女性らしく変身する術を身につけた。

私は清光に、何の嫌悪も抱いていなかった。

寧ろ拒むより、擁護する気持ちの方が強い。

2人だけの秘密にしなければならない。

清光を守るためなら、着せ替え人形にでも何にでもなれる。

彼の特別な相手でいられる事の優越感が、何より勝っていた。

幼い頃から夢は〝清光のお嫁さん〟だったのだから、我ながら長い恋だと思う。

その長い長い年月は、2人の関係がおかしな方向に転がってしまったことも、あっさり受け入れてしまった。

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学祭の準備が始まると、私たちの秘密の花園に変化が訪れた。

何時も真っ直ぐに帰宅していた放課後は、作業で削られるようになった。

模擬店で提供する料理、内装、衣装それぞれについて何度も打ち合わせが重ねる。

調理係のリーダーの私は、必ずそれに参加しなければならなかった。

清光のいる大道具係は屋外で作業することが多く、下校時間まで顔を合わせないことも当然ある。

買い出しをしたりとすれ違いになり、私の部屋に来ない日が続いた。

暦が7月に変わり、学祭が間近に迫ったある日曜日。

委員長の家で打ち合わせがあった。

各係のリーダーと他何人かの生徒が集まり、その中に清光も混じっていた。

進歩状況を報告し合い、どの係もテーマに沿った物が出来上がる予定と分かり、皆んなで胸を撫で下ろす。

午後には解散になり、私は清光に引きずられるようにして、大通りにあるデパートへと向かう。

彼の目当ては、伊口さんの使っていたリップグロスだ。

私がグロスを探しているという体で美容部員さんに相談し、商品をいくつか試させてもらう。