人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ6)

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「真衣、ちょっと待って！」

私は喫茶で料理を提供する係になり、くじ引きでリーダーになってしまった。

早速、放課後に調理室で講習を受けねばならない。

掃除の間も女子たちと話していた清光は、私の姿がない事に気づいて追いかけてきたのだろう。

「何で先行くの」

「だって、清光とは係が違うじゃない」

「どうせ一緒に作業することになるんだし、俺も話聞いておいた方が良いじゃん」

清光は喫茶の内装を担当する大道具係だった。

提供するメニューと雰囲気を合わせなければならないため、準備の間も何かと一緒にいることが多いのは事実だ。

「あんなに伊口さんたちと盛り上がってたんだから、あの子たちと同じ係になれば良かったのに」

思わずキツい言い方になってしまう。

それを聞いて、清光は「ふふっ」と笑った。

「真衣ちゃん、やきもち？」

「絶対違う」

キッパリ言い放つと、彼は肩を竦めた。

女装している時は色っぽい仕草だが、どうして今は無邪気に見えるのだろう。

講習のある調理室は、校舎でも普通の教室とは離れた所にあり、次第に生徒の数が減っていく。

1年生が使う水飲み場とトイレがあるものの、放課後は利用する人も少ない。

他のクラスのリーダーは既に集まっているのか、廊下に人の気配はなかった。

清光が何度も辺りを見回す。

誰もいない事を指差し確認すると、その手で私の腕を掴み、有無を言わさぬ勢いで水飲み場へと引き込んだ。

トイレに連れ込まれるのではと身構えたが、彼にそのつもりが無いことも分かっている。

死角になる場所を考え、女子トイレに続く水飲み場を選んだ。

「清光・・・？」

「静かに」

私が胸に抱えていた筆記用具を奪い取り、清光はそれを目隠し窓に立て掛ける。

そして私の顔を見て、唇を妖艶に曲げた。

秘密の花園での清光が、目を覚ましたらしい。

その色っぽい笑みに溜息が出て、彼が他の子ではなく私を選んだ事にホッとした。

「・・・今日は何が気に入ったの？」

「伊口が持ってたグロス。
昨日発売したばっかの新作だった。
あれ、絶対買う」

熱の籠った言葉に、彼のスイッチが入ったのが分かる。

「ねえ真衣、触っても良い？」