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「このままじゃ本当に女装喫茶になっちゃうけど」
横浜くんが溜息混じりに言う。
けれど、クラスの空気は1つに纏まったようだ。
「いいじゃん、女装喫茶。
たしかに名前はダサいけど」
「じゃあ逆転喫茶って名前にしよ！」
「よし、決まり」
ホームルーム終了寸前に、2-B模擬店のコンセプトが決まった。
慌ただしく係を決めたところでチャイムが鳴る。
放課後には早速実行委員会が代表会議に向かい、各係のリーダーもそれぞれ説明を受けねばならない。
下校の準備を始める騒がしさの中、私はチラリと清光を盗み見た。
その横顔から感情は読み取れない。
彼は私の視線に気付かぬまま、席を立って係のグループに向かった。
「・・・加州くんって、女の子の格好に色々口五月蝿く言うんだろうね。
きっと」
メイク直しを終えた伊口さんが、清光の背中を見ながらポツリと呟く。
「私なら無理」
そして、私に視線を投げた。
女子から人気のある清光は、一部で私と付き合っていると噂されている。
彼女の視線に込められたのは、そういう意味だ。
清光は私たちの関係を周囲に探られていることを対処するでもなく、寧ろそれを利用した方が便利だと気付いている。
そもそも登校時から一緒で、帰りは私の部屋に直行している仲なのだから、否定しても信じてもらえない。
あくまで清光の趣味を隠すためであり、私もそれをバラそうと思わなかった。
ただ、告白してくれる女子を片っ端から断っているのを見ると、彼は女の子に興味が無いのかと思ってしまう。
17歳という多感な年頃に、私の体に触れても何もしてこない。
ファッション雑誌を愛読し、メイク動画を見て熱心に研究しては、自身もそれを参考に美しく変身する。
何故、彼がそこまで女装に興味を示すのかは分からない。
彼が女姉妹に囲まれているのならまだ納得いくが、清光に姉妹はいない。
あの手指が私胸を掠めたとしても、決してその先に触れることはない。
スカートの中に滑り込ませた太腿を撫でたとしても、それ以上のことはない。
まるで人形を愛でるかのように、私の身体に触れるのだ。
彼は私に、性的な感情を抱いていない。
私に女としての魅力が無いのか、それとも清光が女性に興味が無いのか。
もしも私が、彼のことを1人の男性として見ていると知られてしまったら。
清光はきっと、私を拒むに違いない。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月22日 1時
