人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ3)

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清光の女装は、あくまで私の部屋でだけ。

清光の家族は、この趣味を知らない。

彼が毎日のように私の元に通うのは、年頃の男女の交際だと、互いの両親は考えている。

実際は清光が家族に怪しまれないよう、彼のコレクションを私の部屋に置いているからなのだが。

普段の清光は、高校に通う普通の男子生徒。

まあ、普通というには少々イケメン過ぎるが。

6限目のホームルームは、学園祭についての話し合いだった。

私たち2年B組の模擬店は飲食の権利を獲得したが、コンセプトの話し合いが纏まらず、時間ばかりが過ぎる。

クラス毎の模擬店の他、部活動に所属する生徒は、それらの出し物にも力を入れる。

放任主義の担任は口を出さず、教室の隅でうとうと舟を漕いでいた。

窓の向こうに、ポプラの綿毛が飛んでいる。

私たちの通う高校は街中にあり、校庭から大通りに接する公園を臨めるのだ。

話し合いは学級委員長の横浜くんが仕切っているが、彼よりもリーダー格のグループの方が、強い発言力を持つ。

多少意見が出たとしても、そのグループが良しとしなければ決定に至らない。

ヒエラルキー上位たちは話し合いに飽き、女子は机の上にメイク道具を広げていた。

昼休みにもメイクを直していた筈だが、放課後に向けて並々ならぬ気合いを感じる。

制服は男女共に臙脂色のネクタイと決まっているが、それを無視して、私物のリボンを付ける女子もいた。

クラスでも一際華やかな伊口ひかりが、清光の後ろの席で手首に香水をつける。

マスカラを塗っていた伊口さんは、鏡をズラして清光の顔を見る。

「そんなにジロジロ見て、面白い？」

「面白い。
伊口の髪さ、いつも何て言って染めてるの？」

私たちの学校は比較的校則が緩い。

夏休み明けなど節目の頭髪検査さえパスすれば、メイクや髪型はある程度自由にさせてくれる。

市内では割と偏差値の高い学校のためか、ハメを外し過ぎる生徒はおらず、みな常識の範囲内でオシャレを楽しんでいた。

彼が事ある毎に女子に声をかけるのは、自分の趣味を抑えきれないから。

雑誌で紹介されたブランドの新作を持っている人や、思わず見惚れてしまうような美しい髪の主が、気になるからだ。

女子たちはメイク中の姿を見られるのを恥ずかしがることなく、道具に手をのばす清光にあれこれ教える。