人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ17)

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お互いがお互いの特別でいられる事が、たまらなく嬉しかった。

けれど月日が経つにつれ、身体と心は変化を迎える。

「少しずつ、真衣の服が入らなくなった。
大きいサイズを買っても、今度は自分に似合わなくなった。
真衣と同じメイクをしても、真衣と同じにならなくなった」

「・・・清光は、女の子になりたいの？」

それはずっと胸に抱えていた疑問だ。

けれど、彼は首を横に振った。

「真衣が理想なんだ」

ようやく、清光がこちらを見る。

「子供のころから、ずっと一緒にいた女の子。
ずっと同じでいられると思った。
でも、それができなくなった」

「・・・清光は、私になりたかったの？」

再び瞼を伏せ、彼は静かに頷く。

「真衣がどんどん女の子っぽくなっていくのに、俺は同じになれなくて。
それが、突き放されてるみたいで・・・」

愛でていた人形に感じはじめた違和感。

「同じところが、どこにもない。
真衣は毎日綺麗になっていくのに、俺は服もメイクもに合わなくなってきた。
それが悔しくて、羨ましくて、悲しくて」

彼は私の中に、自分の姿を探していた。

「・・・真衣が好きなんだ」

振り絞るように、清光は言った。

「真衣の中に俺と同じところがあると思うと、安心した。
真衣が俺のことを見てくれてるんだって思った。
でも真衣の身体が変わっていく度、俺とは違うって突き放されてるみたいで・・・。
真衣の中の俺を探すうちに、抱き締めたくなって、めちゃくちゃにしたくなって、自分の物にしたくなって・・・。
ーーそう思ってしまう自分が、余計に真衣から離れていくような気がした」

その言葉と共にキツく閉ざしていた瞼が開き、大粒の涙が溢れる。

「ごめん、真衣。
ごめんね」

「・・・清光」

堪え切れずに泣き出した清光は、まるで子供のような嗚咽を繰り返す。

涙を拭う度にアイシャドウが落ちていく。

ファンデーションも何もない無垢な肌に、私はそっと手を伸ばした。

「私も清光のこと、抱き締めたい」

涙に濡れたその手を、私は握った。

「触って、清光」

彼の手を引き寄せる。

躊躇い、離れようとする手を、胸に押し当てた。