人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ15)

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努めて軽い口調で、私は言葉を続けた。

「ぶっつけ本番でやるより、予め練習しておいた方が、雰囲気掴めるでしょう？
衣装も悩んでるみたいだから、家にあった私の服を着せてみたんだけど」

苦しいだろうか。

不安な気持ちを押し殺し、私は真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。

「衣装係は伊口さんなのにごめんね。
当日、私も何か手伝えたらと思って」

「・・・それは別に良いけど」

押し通せた！

彼女は強張っていた表情を緩ませ、私たちを交互に見比べる。

「やっぱり女子と男子って、同じメイクをしても駄目なのね。
加州くんならちょっとイジれば大丈夫だと思ったけど、こうやって見ると・・・」

唇に拳を当てながら、伊口さんは清光を観察する。

遠慮の無い視線を浴びて清光は微笑んでみせたが、それは唇が引き攣ったようにしか思えなかった。

「服も化粧も、私たちの物を使えば良いってわけじゃないかも。
加州くん中性的な顔つきしてるけど、やっぱ男子だ。
レディースの服を着ると、骨格が悪目立ちする。
女っぽくしようとするほど、不自然になる。
先輩たちの女装喫茶が失敗したのは、ソレが原因だったのね」

1人冷静に分析し、伊口さんは自分に言い聞かせるように大きく頷いた。

部屋の中という小さな空間では気づかなかった事が、街という大きな空間に立つことによって、明るみになる。

「参考になった。
ありがとう。
学園祭の前に、練習する時間を作ろうか」

「そうだね。
私にも手伝えることがあったら、何でも言って」

「うん。
でも2人とも、早く帰った方が良いよ。
加州くん、罰ゲームみたいになってるから」

じゃあねと軽く手を振り、伊口さんは帰って行った。

私たちはただ呆然と、その場に立ち尽くすしかなかった。

・

・

「・・・清光、大丈夫？」

刻々と日が沈み、暗くなっていく公園の中。

私は滑り台の下を覗き込む。

アスレチックの穴の中で、清光が膝を抱えて蹲っていた。

公園で遊んでいた子供たちは、皆家に帰ったようだ。

人通りが途絶えた公園は風が吹く度に木々が揺れ、悪戯に緑の香りを立ち上らせる。

「清光」

呼びかけても返事はない。

膝に顔を埋める彼が、どんな表情をしているかも分からない。

伊口さんの姿が見えなくなった後、清光は何も言わず、この場所に隠れてしまった。

子供の頃、彼は嫌なことがあると此処に隠れていた。