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そのメロディーを振り切るように、今の私は、公園の中を走り抜ける。
もう帰れない、帰りたくない。
夕暮れに帰っていたあの頃には戻れない。
唇に清光の感触が残っている。
心の鍵を開けられてしまった。
もっと触ってほしいと、抱きしめてほしいと、本当の私を知ってほしいと思ってしまった。
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私はこの公園で遊んでいた頃から、その香りに包まれ、恋をしていたのだ。
清光のことが、好きで、好きで、好きで。
そして、苦しい。
「ーー痛っ」
前を見ずに走っていたため、私は歩いていた人に気づかなかった。
「すみません」
ぶつかった相手の鞄が落ちてしまい、それを拾うと、その人と目が合う。
「・・・伊口さん？」
今日の昼間、委員長の家に集まったメンバーには、衣装係の伊口さんもいた。
自宅はこの近辺ではない筈だが、何故此処にいるのか。
驚く私に、彼女はぶつけた肩を摩りながら、形の良い目を丸くした。
「蓮水さん、どうしたのその格好」
その指摘に、私は我に返る。
ここまで着飾った姿を、彼女は見た事がない。
「メイクすると雰囲気変わるね。
良いんじゃない？
学校にも、それで来ればいいのに」
しげしげと観察する眼差しが、ふいに私の背後に移る。
「ーー真衣！」
清光が追いかけてきた。
呼ぶ声は息が切れ、甘い声を作る余裕もない。
振り向くと、ワンピース姿のままだった。
伊口さんに気付かない清光に、私は血の気が引くのを感じる。
2人を会わせてはいけない。
けれど私が動くよりも早く、彼女の瞳が清光を捉えた。
立ち止まり、膝に手をついて息を切らす彼の姿を。
「・・・加州くん？」
伊口さんは、あっさりと正体を見破ってしまう。
「その格好、何」
清光の顔が青ざめていく。
ツカツカと歩み寄る彼女の背に、私は声をかけることも出来ない。
「何で女の子の格好してるの？」
清光は酸欠の金魚のように、口をパクパクと動かす。
服の下では走った汗ではなく、冷や汗が流れているに違いない。
私が清光を守らねば。
「ーー練習なの」
口を開いた私に、2人が振り向く。
「学園祭の練習なの。
清光にお化粧してみたんだ」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月22日 1時
