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息がかかる程の距離。
言葉もなく、見つめる瞳に映る私。
それがまるで別人のように見えて、頭の中で冷静な自分が首を傾げる。
彼の瞳は、誰を見ているのだろう。
彼の前にいるのは私だ。
この秘密の花園で、彼に言われるがままに着飾る人形だ。
けれど清光は、私に何を求めているのだろう。
誰の姿を求めて、服を着せているのだろう。
何を言って欲しくて、唇に色を載せるのだろう。
どうしたら清光は、私自身を見てくれるのだろう。
「・・・清光？」
私が呟くより早く、清光の唇が目尻に落ちる。
反射的に目を瞑ると、彼の指がブラウスの下に潜り込むのを感じた。
いつの間にかボタンを外されている。
はだけた胸元に寄せられた唇は、肌に口紅の跡をつけた。
深みのあるボルドーの口紅は、清光のお気に入りの色だ。
けれど清光は、このボルドーを私の顔に載せた事はない。
彼に似合う色が、私には似合わない。
清光が私に求めているのは、彼にとっての理想の女性だ。
彼の好きな色が似合い、彼の好きな服を着こなす、彼にとっての女神。
けれど私は、それに応えることが出来ない。
「真衣、綺麗だよ」
囁く唇が、耳たぶを食む。
その感覚に、身体がゾクリと震えた。
今目の前にいる清光は、女性だ。
けれど、私に触れる手は大きく、逞しい。
身体を起こし、私を見下ろす姿は、紛れもなく女性の姿だ。
けれど、ワンピースの下の身体は、ゴツゴツと骨ばっている。
「真衣・・・」
囁く声は甘く掠れ、そして深い。
「清光」
咄嗟に私は、清光の胸を両手で押し返していた。
清光はその手を掴み、簡単にベッドに縫い止めてしまう。
片手で私の手を押さえ、もう片方の手で肌に触れる。
逃れようとする身体に、わざと体重を乗せて動けなくする。
胸元を這う唇から吐息を感じて、身体が火を点けられたように熱くなった。
清光と離れて過ごしすぎた。
放課後に部屋で会わずに、学校でばかり会っていた。
ほんの僅かな期間にも関わらず、私は清光の男性の姿に慣れていたのだ。
今、自分に覆い被さっているのは誰なのか。
「・・・清光、待って」
声が届いていない。
清光は私を、人形のように扱う。
彼は私の身体に理想の女神を重ねている。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月22日 1時
