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「ーーできた。
真衣、もう良いよ」
甘い声に誘われるように、私は瞼を開く。
「やっぱりこのマスカラ、買って正解だった。
アイシャドウも涼しげで良い色だし」
出来上がった私の顔を眺めて、満足気に微笑む表情は、とても近くにある。
「真衣、かーわいい」
ルビーのような瞳を奥にひめた、切長な目元。
紅く濡れた艶やかな唇。
長い脚を崩して座るその姿は、この部屋の中でも大輪の花が咲くような存在感を放っている。
「さすがだね、清光」
メイクの出来栄えを褒められ、清光が微笑んでみせる。
タイトなワンピースからのぞく腕や足も、色が白く、長い。
スラリとした体躯に、無駄な脂肪は一切なかった。
「いいな、真衣は。
メイクも服も、何選んでも似合って」
買ったばかりのコスメを並べ、清光は次々と私の顔に試していく。
ゾクリと背中を震わすような色気を含む声は、少し間延びした甘い喋り方だ。
唇にさくらんぼの香りがするグロスをたっぷりと塗られ、ようやくメイクが完成する。
真正面から私を見つめるその瞳。
妖艶に弧を描く唇。
こちらもまた、メイクでその美しさをより引き立たせていた。
物心つく頃から一緒にいた、この幼なじみ。
彼の趣味は、私を女の子らしく着飾らせること。
ーーそして、自らも女装すること。
「このグロス、あんまり色濃くないから真衣も好きでしょ？」
封を開けたばかりのグロスを手に握らせて、清光はまた、ふふっと笑う。
しなを作ってみせた時、僅かに緩んだ胸元からのぞく白い肌。
そこは真っ平な筈なのに、思わずドキリとしてしまう。
彼は毎日、放課後を私の部屋で過ごす。
部屋一面を服やコスメでいっぱいにして、自分や私を好きなように飾り立てるのが、何より好きだ。
私を練習台に磨いたメイク技術は、そこらの女子より、よっぽど上手かった。
技術だけでなく、彼の美しい顔立ちは、私たちを惹きつける。
真顔ではキツい印象があるが、笑うと可愛いらしい印象に変わる。
お気に入りにテディベアーを抱き上げ、鼻先を合わせる姿は、少女のように可憐だ。
表情や仕草が変わる毎にその魅力も刻々と変化し、毎日見ていても飽きることはない。
「女の子っていいよね。
ちょっと手を加えただけで、凄く綺麗になる」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月22日 1時
