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その目から、涙が溢れて床にポタポタと落ちる。
「西宮さん？」
玄師が声をかけると、真理亜は玄師に背を向けてフロアを出て行こうとした。
和佳子が周りに集まっていた女性たちを掻き分けつつ、真理亜の前に立つ。
「真理亜ちゃん、踊りたくないの？」
和佳子に問われて、真理亜は小さく頷いた。
「何で」
「私じゃ・・・私じゃ、駄目なんです。
全然駄目なんです」
涙が止まらなくなって、真理亜は両手で顔を覆った。
「サンバダンスを習ってみたけど、私には無理なんです。
技術だけは身に付いても、それだけなの」
和佳子があやすように、真理亜の肩を抱いた。
「それだけなんて言わないで。
真理亜ちゃんは頑張ってるじゃない。
ちゃんと勉強してるんだから」
「勉強じゃ駄目なんです。
サンバダンスの個人レッスンも受けたわ。
ステップはできているって言われた。
でも、先生が踊っていたのと何か違うの。
ブラジルのことも調べたけど、実際にブラジルに行ったこともない私は、偽物でしかないんです」
真理亜は肩を震わせ泣き続けた。
「真理亜ちゃん、座ろうか」
和佳子に促されるまま、真理亜はフロアの隅に置いてある椅子に腰掛けた。
和佳子が温かいコーヒーを注いでやると、震える手で受け取る。
それでも涙は止まらず、ポタポタとコーヒーカップの中に落ちた。
「真理亜ちゃん、これ食べて。
玄師ちゃんが作ったお菓子よ。
真理亜ちゃん、甘い物好きでしょ」
和佳子が差し出すブリガデイロを素直に受け取り、ひと口齧った真理亜は目を見開いた。
「甘い！」
ゆっくりと味わい、コーヒーを飲む。
「びっくりした。
こんなに甘いなんて・・・凄く美味しい」
心底驚いたらしく、真理亜の涙がピタリと止まった。
真理亜は残りの半分も時間をかけて味わった。
「これって、何なんですか？」
真理亜に見上げられた玄師が答える。
「ブリガデイロと言います。
ブラジルで広く愛されているお菓子です」
「・・・ブラジルの人が好きなもの。
サンバダンスと同じですね」
真理亜は溜息を吐くとコーヒーを飲み、もう1つ、ブリガデイロに手を伸ばした。
「こんな美味しい物を食べているから、ブラジルのダンスは激しいのかな。
こんなに美味しい物を食べているから、ダンスに魂が籠るのかな」
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作者名：井原 | 作成日時：2022年11月24日 22時
