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手元の秒を刻む時計は午後三時を指していた。玄関の歯切れの良い音と同時に、「ただいま」という。




「蘭ちゃん…?」




リビングの方からひょっこり顔を出したAは、俺の姿を見るなり綺麗な顔を明るく染めて走りよった。






「驚いたわ。今日は早かったのね、すごく嬉しいわ。」



「久々に書類整理だけだったからな〜。俺も愛しのハニーの待つ家に早く帰って来れてラッキー。」






昂る気持ちが抑えきれず、Aの腕を引いて腰を手に回す。軽くステップを踏めば、Aはそれに合わせてくるりと一回転した。いつかみたアメリカの映画みたいだと笑いあった。















「ねぇ蘭ちゃん。私、早く帰ってきてくれて本当に嬉しいわ。蘭ちゃん、蘭ちゃん。…ふふ、蘭ちゃん。」






酔いしれるように俺の名前を呼び続ける彼女は、俺の膝の上で顔を緩ませていた。




「そんな呼ばなくたって俺はどこにもいかねぇよ。」




頭を撫でて頬に手を滑らせると、Aはこう言った。



「あら、そんなことはわかりきっているわ。だって私の蘭ちゃんだもの。ただ、愛しいダーリンの名前を呼びたいだけよ。蘭ちゃんなら分かるでしょう?この気持ち。」





ああ、もちろん。その言葉がつっかえる程の愛しさで溢れていた。何も言わない俺に「蘭ちゃん?」と首を傾げる様子も、「まさか、私だけなの?」と少し拗ねる様子も、全てが愛おしい。





「俺は心の中で何千何億とお前の名前を呼んでるけど?」




そう言って鼻にキスをする。どうやらまだ機嫌は直らないらしい。






「そうなの?でも蘭ちゃん、だめよ。私言葉にしてくれなきゃいやなの。



ねぇ蘭ちゃん。私のことは呼んでくれないの?」







一体神は、こいつにどんだけの才をプレゼントしたのだろうか。



もしくは……いや、きっと、俺のためにAをプレゼントしてくれたに違いない。






「だーいすきだからな〜、A♡」



「ふふ、私もよ蘭ちゃん。」







まぁ、もう俺のもんだから神に感謝なんかしてねぇけどな。

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作者名:すき子 | 作成日時:2022年1月22日 23時

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