1曲目 ページ1
「田和ちゃん、おはよ」
前の席が引かれると同時に、貼り付けたような笑顔で挨拶をかわす男
別に、挨拶なんかしなくてええんよ
挨拶を返さずに言えば、なんや、どしたん?とキョトンとした顔が私を見つめた
前の席に座るこの男、名前は宮侑
最初の印象は、名前書くときにぱぱっと書けていいなあ、だった
しかし意外だと思ったのは、めちゃくちゃ女子からモテるということ
まあ、顔だけだったらイケてる方やけど
私は断然、双子の弟、治くん派なんや
「そんな難しー顔して、なんなん?腹痛か?はたまた、せい」
「遅刻した癖になんなん。女子にそないなこと聞くなんて、アンタそれでもナンパ職人か?
そういうのは察するのがエチケットってやつやろ」
「ナンパ職人って何や、人のこと何だと思っとんのや!それと遅刻はたまたまや!」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる宮侑を無視していると、予鈴のチャイムが鳴った
小さなため息を吐きながらも、読みかけの本に栞を挟み、机の中にしまう
あともうちょっとで読み終わるのに、いい所で宮侑が来て、意識が削がれてしまう
無視してもいいんやけど、騒いで集中出来ひんのよ
そんなことを思っていれば、隣の席の子がぱしぱしと腕を叩く
「たわちゃんっ…あの宮くんをナンパ職人呼ばわりなんて、大した度胸や…!」
「治くんと比べたら、こんなん楽勝やん」
「それは違う気がするけど…」
茶髪のセミロングで、お目目がぱっちり、女子力満載
例えるならば、お人形さんみたいな感じ
黒髪ショート、冴えない顔、女子力の欠片もない私とは大違いだ
彼女は瞬きをしたあと、やんわりと笑って
「ほーんま、治くんのこと好きやんなぁ。たわちゃん」
なんて楽しそうに呟いた
内心びくりとしながらも、ばれとった? とはにかんでみる
あのな、
あのな、ほんまはな
「田和ちゃーん、田和さーん、プリント取ってーなーー」
はっ、と前を見れば背を向けたままプリントをひらひらと動かす宮侑
少しイラッとしながらも、手を伸ばしてそれを取る
「置いとけばええやろ、なんでいちいち待つん…」
聞こえないように言ったつもりが、前の彼はくるりと顔を向けて、また貼り付けたような笑みで言った
「手渡しの方が、愛情こもっとるやん」
「うげえ気持ち悪」
「失礼やな」
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