【d!】85%の敬愛 (ページ6)

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5．ページ6

道中，彼に名前を教えて貰った。
彼の名はゾムと言うらしい。聞き慣れない響きの名前に違和感を覚えながらも，とりあえずはゾムさんと呼ぶことにした。自分の身の危険の事を考えるとゾム様でもいいのだけれど，舐められすぎるのも良くないなぁと自分なりに考えた結果だ。

｢そういえばなんやけど｣

少しの無言を挟んだ後，彼が足を止めて私の居る後方を振り返って言った。どんよりと絶望どん底暗黒オーラを放って俯いていた私も足を止めて彼の表情を伺う。次の瞬間

｢お前，怪しいもの持っとらんよな？｣

瞬きする間に私は壁に押し付けられ，首筋に冷たい感覚が走った。状況を理解することが出来ず言葉に詰まる。フードと顔にかかった前髪の間から見える目は，完全に私を捉えていた。ナイフを持つ手に迷いは無く，まるで獲物を捉えた猛獣のような，獰猛な静寂を纏った彼が，そこに居た。

自然に目に溜まっていく涙を堪えながら，必死に彼の信用を得ようとする。けれども喉の奥から出るのは掠れた息ばかりで，震える指先で私を抑える彼の腕を解こうとするも力が強すぎる。

それに加え彼は私の足の間に自身の足を挟み私を持ち上げている。つまり私は地面に足が着いていないということ。逃げ出そうにも体の自由が効かない。

｢持って，ませ，ん｣

聞き取れるか聞き取れないか位の声量で，私は彼にそう伝えた。彼は私が無力な平民であると悟ったのだろうか，目を細めて優しく笑うと私を下ろしてくれた。ナイフを当てられた首元がチクチクと痛い。指先で触れると嫌な感覚と共に真っ赤な血が付着した。今まで転んだ時くらいにしか見なかったそれに酷く怯えてしまう。切れ味の良いナイフだったのだろうか，今まで全く気付けなかった。

肩で息をしながら震える私の頭を，彼は優しく撫でてくれた。先程の彼とはまるで別人のようだ。私のものであろう赤い液体が滴るナイフを片手にニコリと笑みを浮かべる彼は恐怖を覚えるより先に狂気を感じる。圧倒的強者を前に何も出来ず死と隣り合わせになったこの状況をやっと呑み込めた。下手したら私，死ぬんだ。

｢えらい怯えようやな？まぁ無理もないか｣

そう告げた後に耳に届いた“可愛ええな”という言葉は，間違いなく私の人生史上1番嬉しくない褒め言葉だった。