拝啓、失恋者ども

sideふぉい ページ29

「Aをクビにしようと思う」



社長は至って普通に、業務連絡でも伝えるように、その言葉を言い放った。


次の瞬間、俺は社長に掴み掛かっていた。






なんで、あんたがそんな事を言うんだ。


Aさんの気持ちを踏み躙るような真似を、アンタにだけはして欲しくないのに。



俺が世界で1番尊敬する、アンタにだけは…





「もう決まった事や。絶対に変えん」



「納得できねぇっす！」





社長にこんなに声を荒らげたのは、久しぶりだった。



この人が、自分の意見を曲げない人だと言うのはわかっている。俺は、この人について行くと決めた日から、社長の意見に反対することなんてなかった。





でも、今回は違う。



「いきなりクビなんて」






Aさんが、頑張ってきたのを知っている。



それは単に社長に認められたいだけでは無いだろう。本気で自分の夢を叶えようとする姿に、俺は惚れたんだ。


社長は、俺よりもその事を知っているはずだ。なのに、こんな仕打ち、納得できるはずがない。




俺は、Aさんが泣いているのを見たく無い。例え彼女の隣が俺じゃなかったしても、あの人には笑顔でいて欲しい。笑顔が1番似合うから。









「あいつには、あいつの人生があるやろ。俺らが縛り付けて良いもんじゃなか」



あぁ、悔しい。




どうしたって、この人の言葉に俺は納得するしか無いんだ。







「でも、Aさんはっ」


アンタのことが好きなんだよ。




悔しい。






あの人の隣には俺は並べない。



なのに、あの人の隣が1番似合うこの男が、彼女を突き放すことが。俺が、それを拒めないことが。

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