恋心と呼ばずになんと呼ぼう？(３) ページ10
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「おい」
部活終わり。タオルに顔を埋めて、息と一緒に体の熱と、疲れを吐き出した。しかしそれで全て抜けきれば人間は睡眠なんぞ要らない、残った疲れはタオルに押し付けて、後の自分に任せた。
今の自分は、私に声をかけた彼に向いてあげなきゃなんないから。
「あぁ……んと……爆豪くん？ 合ってる？」
「おう」
彼、私の名前覚えてるのかなぁ。
どうせあれでしょ……編糸が「しーちゃーん！」って呼んでるイメージしか記憶にないんでしょ……
知ってるからもういいよ。
そう心の中で一人の自分が苦笑してつぶやいたが、もう一人の自分は名前知らなくても会話は成り立つ、と真顔で呟くので、表情筋が仕事していない方に思考を委ねた。
「何か、ようかな？」
……編糸が、
『バカ豪バ勝己……えっすご、ねえしーちゃん、爆豪って名前に全部バカつけられるよ？』
って感動してたの思い出して腹筋がしんどくなってきた。
タオルで口元を隠して必死で堪えてる、頑張れ私。
「要に渡しといてくれ」
不機嫌をこんなにも自然に顔に表せられる人間いるかしら、と思いながら、不意に投げられたモノを右手で掴む。
左手？ 未だタオルを握っています。
「んぁ……あ！」
何を唐突に、と思うより先に、シャーペンに貼り付いた糸こんにゃくのシールが目に入る。
編糸マークだ。ていうか個性が糸だからって自分のマークを糸こんにゃくにする必要はなかったんじゃないか。他にもあるじゃん。ちくわとか。
「なんでコレ持っ、おい待て帰んな」
自分から話しかけといて返事もなしに帰るのひどいんじゃないの待てや。
私がシャーペンから目を離して前を見たときにはもう爆豪は私に背を向けていた。私だって言いたいことがあったので横にあった誰かの鞄からお箸箱を取り出してフルスイング。
綺麗に爆発頭に刺さって落ちた。ヤダ私天才？
「落ちてたンだよ！！」
死ね！！！という顔をされた。死ねっていう感じの顔ってどんなだよ。あんなだよ。
「爆豪くん、やさしーのね」
めっずらしい。それがどういうことか思い当たって、自然に唇が三日月を作った。
タオルを肩にかけて、爆豪くんにも、私の意思を示す。
彼は私の表情を見るなり、ガラ悪く舌を鳴らす。ひどいな……
「何が言いてぇんだよ」
「いや、きっと私と爆豪くんは、同じだと思うの」
その言葉を皮切りとでも言おうか、頭上の木々が、風に煽られて波打った。
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作者名：泡沫 | 作成日時：2018年7月21日 21時
