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僕が黙りこくっていると、かっちゃんはロッカーの周りをウロウロとし始めた。いや、返事など求めていなかったんだろうけど。
彼はは脇に音楽のファイルを抱えていた。うちのクラスのひずもりくんと仲が良かったから、きっと彼に借りていたとかそんな所。
ぴた。足を止めてガサガサと一つのロッカーに手を突っ込んだ。ガタ、ゴトとリコーダーや体育館シューズを引っ張り出して隙間を作っているのが視界の端で見える。
ひずもりくん置き勉しすぎじゃない？
明らかに副科目だけじゃなく主要５科目のも入っている。
ちなみに彼が提出物を遅れて出したことは確か一度もない。どういうことだ。
あとひずもりくん強くない？
幼馴染だけにかっちゃんの行動パターンがわかってしまうから言えること。かっちゃんなら確実に貸した相手に直接返しにいくだろう。
教室までわざわざ持ってきたってことと、入ってきた時の言葉。え、なに、向かい合ったうえで「ああロッカー入れといてー」的な会話があったの？ かっちゃんそれ了承したの？
かっちゃんって二重人格だっけ。
僕は悶々とかっちゃんについて考える。いやむしろひずもりくんについて？
その間にかっちゃんは用事が済んだらしく、僕を視線で撫ぜた。やけに時間かかったな、やっぱりひずもりくん置き勉量……！
ギロ、と睨まれて、肩がこわばる。彼はのろのろと近寄ってきた。
明らかに侮辱を含んだ笑みは、僕の前にあったシャーペンに向けられた。要さんのもの、だけど。
僕が「あ」と発音しかける一歩手前で、三日月を描いたかっちゃんの口から言葉が落ちる。
「お前性格も個性もナヨっちいのに、趣味まで女々しいンか？」
「ちが、それ僕のじゃ、」
ふはっと笑われて、シャーペンはかっちゃんの手に握られた。馬鹿にするように、視線で全貌を舐めるようになぞる。
しかし、少し手首をひねった瞬間−−つまり、少し視点がズレた瞬間、かっちゃんはふと真顔になって目をぱちりと開いた。
さっき僕も見えた。多分、シャーペンに貼ってあったシールのことを見てる、？ シールは糸こんにゃくのシールだった。謎いな。
「こんにゃく女……？」
「……ごめんかっちゃん誰それ」
「要編糸」
「どういう経緯！？」
「知らん」
小・中学校生活の中で一番かっちゃんと暴言なく続いた会話だった気がする。そして今後少なくとも二年間はこの記録が更新されなかった。
そんな大記録なはずなのに。
ちょっとインパクト強すぎない？？
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作者名：泡沫 | 作成日時：2018年7月21日 21時
