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かなり時間も場所も遡って、某最高のシチュエーションの片棒を担いだ教室。
の端っこに、緑谷出久は座っていた。
彼の向かいにある机には、パステルブルーを入れ込んだシャーペンが。ちょんと、しかし風貌に似合わず絶大な存在感を醸し出し鎮座している。
ついさっきまで、『学年で一番可愛いと噂されてる女の子』が座っていた場所だ。ほんと、２分前くらい。
彼女が一言、虫の羽音にも満たないほどの声で「うん、」と言って出て行った瞬間。本当にその瞬間から、教室が一気に蒸し暑くなった。
暦上では秋だとはいえ、夏の足の方向も、秋の来る足音も、遅くて、気まぐれである。気まぐれであるとしても、しかし急すぎて体がびっくりしている。
先程までは心地よい風が首筋を撫でていたというのに。いま首筋を撫でるのは、少し違和感を這わせる自身の汗だ。
それだけじゃない。
先程までのハーモニーはさてはてどちらに。個人個人の時間なのだろうか、色々とフレーズが混ざりまくってもはやただの騒音である。じゃんじゃん、ぎゃんぎゃん。
校舎の真下まで移動してきたのか。さっきまで遠くで聞こえていた運動部の声が一層近くなった。声音と掛け声で野球部だとわかる。ただただ必死な声はそりゃあ美しいものではあるのだろうが、第三者からしてみるとただのむさっ苦しい遠吠えに近い。
学校内の生徒の生活音は、学校という星の中の自然の一つだ。生徒が生み出す騒音も事件も問題も、立派な自然災害の一つだ。
それにしてもなんとも、まぁ、示し合わせたようなタイミングだ、と緑谷は思った。
しかし、今の緑谷出久にはそんな自然災害関係ない。
今、自分に宇宙レベルの災害が襲ってきたところだったから。隕石落下どころの話ではない。太陽が落下してきてもまだ足りない。
人生で初めて。
女の子から。
それもあんなに可愛くって、キラキラしている子から。
告白された。
好きだと。付き合って欲しいと言われた。
「わぁああ…………」
それを、断った。
心の葛藤も一緒に抱き込むようにして、頭を抱える。
汗が、机に丸く染み込む。体温と一緒に、ふつふつと心に苦しいものが湧き上がってきた。
きっと、すごく傷つけた。すごく悲しませた。もしかして、今どこかで泣いているかもしれない。
今までどこかで泣かせてしまっていたかもしれない。確信できるほどに、僕は彼女をそんなふうに思ったことがなかった。
「っ、」
大変なこと、で。
机に、ずる、と頭を預けた。
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作者名：泡沫 | 作成日時：2018年7月21日 21時
