晴天覗き見る双眼鏡。(１) ページ2
「みどりやくん」
机に両手で肘をついて、顔を隠すように両手で口元を覆う。ちょっと俯き加減で、目線は上げて。緊張のせいで、青色の瞳はすこし潤みがちになって、ほっぺたは、ふんわり桃色。髪の毛はいつも通りのハーフアップ……だけど、今朝の念入りなヘアアイロンが効いて、今までにないほどに綺麗なシルエットを象っていた。
制服は美しく。リボンの曲がりは無し。堅苦しすぎるとそれは可愛くないからあんまりかっちりとはしないけども、それでもキチンとお行儀の良い結び方。輪郭に添えた手は、指先以外は袖で覆ってしまおう。汚れひとつない制服は昨日自分で洗った。ちゃあんと柔軟剤のいい匂いがしてて、漂白剤のおかげで、完璧な黒が私の白い肌と良く映えた。
私の顔に住んでいる猫と、同じくらい、綺麗な白い肌なんです。
極め付けはシチュエーション。
放課後。二人っきり。窓際。向かい合わせ。
ここは三階だから、運動部の掛け声や、よく知らないけど、きれいな曲を奏でている吹奏楽部の音や運動部の掛け声はあんまり届いて来ず、隣の世界の音が漏れている、だけのようで。
残念ながら時間の流れは味方になって早くなってくれたりするはずもなく、夕焼け空は用意できなかったけど、でも完璧に近い。
王道少女漫画も顔負けな、まさにこれぞ告白シーン、と太鼓判を押せる。
今日も可愛い私はお花の笑い声のような可愛らしい声で、丁寧に彼の名前を紡いだ。作ってなんかいない。作り声なんかじゃなく地声だ。だってそれが最も可愛いから。シンプルオブベストじゃないけどそんなカンジかな。ミーオブベスト……？ うっっわ頭悪い感がすごいネ。
「う、ン？ なのにに？」
緊張して、くれてるのかなぁ。クラスの女子で、一番彼と仲が良い自信がある。けど、クラスの中で話している分では気兼ねなく話せるものの、二人きりで話そうとするとお互い挙動不審満載。
そんな関係だけど、緑谷くんとは波長が合う。談笑の終わりはどこ彼方に行ってしまうほどである。話してみると私の興味のそそられる話ではない時もあるのだが、それなのに聞き続けるのは苦ではなかったし。
それに、なにより──うん。
考えて考えて落ち着いて。すうっと小さく息を吸って、それを音にして吐き出した。
「私ッ、」
手を下ろして、代わりに机の上で指を組んだ。
「私ね、」
彼の瞳の緑と私の青が向かい合う。ちょっと声が上ずった。それでも止めずに、
「みどりやくんのこと────」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泡沫 | 作成日時：2018年7月21日 21時
