財前光と出会ってから付き合うまで

６.5 ページ19

〜財前side〜


「っく、」

未だ脳裏に残る後ろ姿に笑いが漏れそうになる。
授業中な事もあり、慌てて口元を抑えた。
名前を呼ばれたことを思い出し、少し冷静になる。
思ってたよりも破壊力があり動揺してしまった。顔が少し火照っている気がする。見られなかっただろうか。

「…はあ」

なぜか、俺以外にも髪を結んでもらった事がある、と聞いてイラっとしてしまった。

…なんとなく自分だけやと思ってた。

なんでそう思ったのかわからないが、普通に考えてそんなわけはない。
しかしそんな優越感を感じていたのは確かだ。

そして逃げようとする先輩を見て更に腹が立ち、つい壁際まで追い詰めてしまった。
けれど自分でもどうして怒っているのか理由が分からず、呼び方のせいだとこじつけたら思ったより食らってしまった。


ふと、先程の先輩を思い出す。
壁に追いやられ、目を彷徨わせる先輩。
目を逸らし恥ずかしそうに俺の名前を呼んでくれた先輩。
反応が気になったのかちらりとこちらを伺う顔。
撫でられてどうしたらいいのかわからずオロオロとする姿。
全部可愛くて、そして全部俺だけに向けられた表情だと思うと自然と口角が上がってしまう。

「…あかんわ」

ふう、と一息吐いて落ち着こうとスマホを取り出すと、謙也さんからlineが届いていた。

トーク画面を開くと、ボサボサな髪をした先輩の写真があった。

「は！？」

体育着を着用しているのでどうやら先程の授業中に撮ったようだ。とりあえず保存はしたが意味がわからず、すぐさまlineを送った。

[なんすかこれ]
[早いな笑][財前くんに結んでもらった〜って自慢してきたから撮ったってん]

想像してはあ、とついため息が漏れた。
髪くくる練習しよ、と心の中で決意する。

次は解けんように。

…多分、もっと喜んでくれる先輩が見れるやろうから。

７-1→←６-3(終)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す