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WEAK MIND :Dr スペンサー リード ページ1

「アーネスト・ヘミングウェイ」

病院の無菌室。
白い壁と天井、大きな窓一つで構成されている部屋で、上半身をおこしベッドに座る彼女は唐突に言葉を呑む落とした。小説何か読まない彼女がアメリカの有名作家のなを知っていることに僕は顔に出さない様に驚いて「何か良いのがあったの?」と尋ねる。すると彼女は、「ええ。とても良い言葉があったの」と微笑む声色で返事をした。
それには少し憂いと哀しみとが混じっていた、一概にも嬉しそうだとは思えないそんな声だった。
春の暖かい陽が差し込む正午。窓から見える大きな桜の木は、可憐に色づいていてる。
それを見つめる彼女の横顔は美しくも儚くて今にも消えてしまいそうで。

「それは、どんな言葉?」

彼女は眉を少し潜めて、悲しそうに窓を見つめると、薄い桃色の唇をゆっくりと開いた。
瞬間僕は眼を見開いた。そして声にならない形容し難い何かと一緒に咄嗟に彼女を抱きしめた。彼女は抵抗もせず僕の腕の中にいても尚、窓の外を見つめ続けては静かに泪を流している。胸が締めつけられて、痛くて、痛くて、言葉も出ない。もし君が僕の前から消えたとしたらきっと息も出来なくなるんだろう。それならいっそ君と一緒に死んでしまいたい。取り残されるのは嫌だ。置いていかないで。僕の前から消えないで。お願いだから一緒にいさせて。

これから消えゆく彼女に、それを言ったところで何になるだろう。きっと彼女をもっと苦しみへ追い詰めるだけだ。溢れそうになる我儘と泪を必死に堪えながら、今では誰のためかも分からなくなった抱擁を縋るようにし続けた。


枝から一枚、ひらりと花弁が音もなく地面に落ちた。



今年の春も晴天だ。白い雲が程よく散らばって、桜は相変わらず可憐に色づいている。
綺麗だなあ。そう口から出た単なる形容詞にも返って来る声はなかった。 見上げた先のあの病室に君はもうい
ない。

胸が痛くて、苦しくて、我儘でも良いからあの時君と一緒に死ねばよかったと、君がいないこの世界なんていったいどれ程の価値があるだろうと、なのに今こうして変わらず息ができてることがこの青々とした空よりも美しい桜よりも何よりも憎らしかった。


お願いだから、どうか。どうか、僕の首を君のその手で締めてはくれないだろうか。






『二人の人間が愛し合えば、ハッピーエンドはあり得ない』 アーネスト・ヘミングウェイ

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有栖 - とってもよかったです。 (2016年5月29日 15時) (レス) id: 410d2ab3f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:太郎 | 作成日時:2015年1月9日 11時

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