地下世界に迷い込んだ少女【第4章】

170話 回想、親友との出会い ページ26

私は言っていた通り、地上でいい思い出はなく、むしろ嫌な思いしかしてこなかった。

こんな醜い世界で生きていくことに絶望した私は、決して入ってはいけないと言われているイビト山へと、足を踏み入れた。

あてもなく歩いていると、大きな穴を見つけた。
私は、その穴を覗き込む。
中は、どこまでも暗く、底が見えない。

好奇心で穴に入ろうとした時、つるに足を引っ掛け、下へと落ちていく。

落ちていく一瞬で、私は──

"やっと、この生き地獄から解放されるかもしれない"

そう思ってしまった。
生きることに疲れた私は、その為ならば、どんな痛みを伴っても構わないと思った。

奴らに虐げられ、心や体のダメージを受け続けるよりも、自らを殺し、人生を終わらせる方が遥かにマシだ。

普通ならあり得ない、歪んだ感情と思考だが、そう思ってしまうほどに、私の心は追い詰められていた。

死を恐怖とも思わず、むしろ歓びを感じたまま、私は浮遊感に身を委ねた──





その後、私は──全身の痛みで目が覚めた。
辺りを見回すと、視界には、金色の花が映っている。

どうやら、この花がクッションになったらしく、私はまだ生きているらしい。
痛みと死ねない運の悪さに、思わず舌打ちをした。

起き上がる気力もわかず、そのまま横たわっていると、遠くの方から誰かの声が聞こえてきた。
幼い少年のような声が。

『…こっちから聞こえてたと思ったけどな…』

その台詞からして、どうやら私を探しているようだ。

…また、誰かから暴行を受けたり虐げられたりするのか。
もう、うんざりだ。
頼むから、こっちへ来ないでくれ…!

そう思っていても、声と足音は、どんどんこちらへ近付いてくる。

『あれ！キミは…！ひょっとして落ちてきたの…？』

…見つかってしまった。
心配そうに私の顔を覗き込むそいつは、ニンゲンではなく──白いヤギのような、モンスターだった。

私は、その問いには答えず、無視をする。

『ケガはない？大丈夫？立てる…？』

それでも彼は、優しい声で言葉を掛け、手を差し伸べてきた。
生きてきた中で、こんな奴に出会ったのは、初めてかもしれない。

それでも警戒心を拭えない私は、痛みを堪え、ふらつきながらも、自力で無理やり立ち上がろうとした。

『あ、危ないよ！』

彼は心配そうにそう言い、私の体を支えた。

『ねぇ、キミの名前は…？』

『…キャラ』

名前を聞かれ、私は思わず答えた。

『キャラって言うんだね。ボクの名前は──』

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