第32話 ページ32
怪我をして一週間経った日の朝。片手の生活にも慣れて着替えもお手の物。ソファに座ってまったりしていると蘭ちゃんが起きて身支度をしている。
人は驚くと固まる事を知った。数秒固まった後に持っていたカップを置いて、蘭ちゃんに笑いかけた。
「蘭ちゃんもやればできるもんだね」
「はっ?」
バカにしてんの?と頭を掴まれると力を入れられている。蘭ちゃんの手を掴んで離そうとするが、片手じゃビクともしない。両手でもおそらくムリだけど。
「痛い、痛いっ。蘭ちゃん、本気で力入れてるでしょ・・・!」
「本気なら、とっくに潰してるわ」
パッと手を離されると痛みを和らげるように掴まれていた頭をさすった。「もうっ」と口を尖らせて文句を言ってると後ろから黒のキャップを被せられる。
見上げると竜くんの顔が見える。帽子は竜くんが被せたようだ。しかし、私に出かける用事はない。
竜くんの白パーカを着れば、太ももまで丈がある為 あとはレギンスを着て終わり。がっつり家でくつろぐスタイルだ。
「帽子?竜くん、なんで?」
「オマエも連れてくから」
「どこに?」
「ケンカ」
淡々と会話をするが、眉をひそめると「はぁ?」と相変わらず口の悪い言葉が出てくる。だけど謎なのは連れて行くと言っている竜くんの方が嫌そうだってこと。
「私、役に立たないよ?」
そんなの知ってるといった顔の灰谷兄弟。そりゃそうだろう。私が一番わかってるつもりだ。
腕の怪我を隠すように上から黒の上着を掛けられると、竜くんの匂いがフワっと香る。しかし、竜くん警戒心高いな。
特別寒いわけでもないから上着もなくていいし、帽子も私は普段 被んないのに・・・。怪我も顔も隠そうとしてる。
「竜胆、Aをあんま見られたくねぇんだろ」
蘭ちゃんは笑いを含んだように私の疑問の答えを竜くんに投げかけた。私、顔に出てたのかな。
「今日は東京中の顔役みてぇな奴らが集まるんだぜ。オレらといるんだ、これ以上狙われたらどうすんだよ」
心配して、私の事を思ってくれてるのもよく伝わった。しかし我慢できずに手を小さく挙げた。
「待って、なにその物騒なケンカ」
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