第30話 ページ30
車というのは不思議で乗ると何故か眠くなる。特に酒の入った今の状態だとなおさら。眠気を覚ますように窓を開けると外を眺めた。
薄暗い空、街に灯る光が明々と輝いている。思い出すのは施設で共に過ごした2人。
・・・あれからもうすぐ7年。2人はまだ施設にいるかな。あそこから逃げた私が今さら会いたいなんて虫のいい話だ。
元気にしてるなら、それだけでいい。
こんな風に考えれるようになったのも、蘭と竜胆が私に疑う余地のないほどの愛情をくれるから。
隣を見ると外から入ってくる光が竜くんを薄らと照らし、どこか色気のある横顔。私と同じかそれ以上酒を飲んだというのに、この澄まし顔だ。
「ん?どうした、眠くなったか」
こっちを向いた竜くんと視線が重なった。小さく頷くと「やっぱりな」といったように笑いの含んだ優しい声。
「ちょっとだけだよ」
「ハイハイ、わかったよ。肩貸してやるから、寝てていいぜ。着いたら起こしてやるよ」
「さすが竜にぃ、優しいー♡」
少し棒読み感を出しながらそう言うと「こういう時だけかよ」と笑う竜くん。遠慮なく肩に頭を乗せると静かに目を閉じた。
私が2人に出会った時は、直感的にヤバい奴に目付けられたなと思ったものだ。あの時は従うしかないと思い、着いて行ったが何度隙を見て逃げ出そうとしたか。
蘭ちゃんには、お見通しで成功した試しはないけど。こう思うと私は脱走癖があるのかもしれない。よくもまあ、ここまで飼い慣らされたものだ。
今は逃げる気すらない。いつの間にか、私の帰る場所は蘭ちゃんと竜くんのとこになっている。これで捨てられたら、まともに生きていける自信はない。
「A、そろそろ着くぜ」
優しい手つきで頭を撫でられる。そんな手つきで起こす気があるのか、薄らと目を開けると竜くんの顔が目の前にある。
「早いね。竜くんの肩、寝心地良かった〜」
「そりゃ良かった。さて、今から骨が折れるぜ・・・」
そうだ。今から蘭ちゃんの機嫌をとらなければ、私たちがヤバい。竜くんは眉根を寄せて、少し顔色を悪くした。
まだ私はマシか。竜くんは、蘭ちゃんに殴られる事もあるしね。私が竜くんと同じ扱いを受けていれば、とうに死んでる。
「兄ちゃん、Aは殴んねぇとは思うけど前には出んなよ。寝起きの兄ちゃんは何するかわかんねぇからな」
「わかってる」
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