第19話 ページ19
最初の記憶は痛み。そしてこんな最悪の世界に産み落とされた事への怒り。もう何もかも諦め、考えるのも面倒で放棄した。
親の顔も知らない。いつも身を守る為に縮こまってきた、顔なんてずっと見てない。そうしている内に記憶からも消えた。
ただ耐えた。「やめて」と叫ぼうが泣いて喚こうが酷くなるだけ、私の中で大人は''敵''となっていた。
いつからか希望を持つ事も、誰かを頼る事もなくなった。生きる為に何だってした。悪い事にも抵抗感はなかった。
だけど、あの日耐える事をやめた。親が借金の形に私を差し出そうとしている事を知り、殺す・・・その2文字が思考を巡る。
盗んだナイフ、扉一枚を隔てた向こうには泥酔した親。殺すのは簡単だった。だけど直前で止めた。
怖くなったわけでも、情があるわけでもない。こんなヤツらの為に私の手を汚す価値はないとわかったから。
捨てるならこっちから捨ててやる、親なんてもういらない。
家を出て転々として生きた。一人で良かった、だけど当時の私は6歳の子ども。不服ながらも保護され施設に連れてかれた。
大人はキライ、誰も信用しなかった。誰かと仲良くする気もない、時期をみて出ていく気だった。その為に良い子を演じた。
上辺を取り繕い、好かれるような存在になるのは簡単だった。ニコニコしていれば、みんな騙された。
そのはずだった。
「なあ、なに苛立ってんの?」
ただ一人を除いて。
褐色の肌に白髪だけでも目を引くのに、顔の整っているその子は施設でも一際目立つ。他人に興味のない私でも知っていた。
「はっ・・・?あ、違っ」
つい嫌悪感丸出しで返事をして、ハッとした私を見てあの人は笑った。それが本当のオマエかと。
不思議と彼だけは信用できた。家族はいるのに、一緒にいれない。何となく境遇が似てるからだろうか。
あの人に出会わなければ今の私はいなかった。
人を拒絶し、今も一人で生きていただろう。
あの時は本当に楽しかった。3つ上の彼を兄のように慕い、次第に人に心を許せるようになった。
そうして弟のような、友のような存在となる子もできた。いつも3人でいた。施設での3年半の月日はあっという間だった。
なのに、それは崩れた。
私は施設から飛び出した。あの人には何も言わずに。探されるのがイヤで遠くに逃げた。一人で生きると決めて。
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