十年後の雲と十年前の雪 ページ9
〜雲雀side〜
六弔花とかいう奴を倒し、ハリネズミを匣にしまう。
茂みに倒れている黒髪の少女をそっと抱き上げ、怪我の具合を確認する。
(……骨に異常はない……受け身をちゃんと取って、ダメージは最小限にとどめたみたいだね。危険なのは……)
「出欠多量による貧血ぐらい……かな」
獄寺隼人や山本武よりは遥かに軽い怪我だ。
僕と昔から戦ってきたせいか、この子は戦い方をよく知っている。
出血が酷く意識はないが、すぐに治療すれば後々影響が出ることもないだろう。
(……女の子は顔が命なのにね)
滑らかな頬についた切り傷や、ボロボロになったセーラー服が少し悲しい。
臓器がやられているわけではないから、そこは安心するのだけど。
とりあえずアジトに戻って紫苑を寝かせる。
応急処置を施し、ゆっくりと頭を撫でる。
細い指先に軽く口付け、僕は紫苑の耳元で囁いた。
「……今はお休み、紫苑」
〜紫苑side〜
「……ん」
身じろぎをすると、体のあちこちが痛い。
「……う」
「あぁ、起きたかい？」
目を開けると、大人びた顔立ちの恭弥が僕を覗き込んでいた。
「……誰？」
一応知らないふりをして尋ねると、恭弥はくす、と笑う。
「わからない？」
悪戯っぽい表情に、子供みたいだなぁと少し微笑んでしまう。
「……恭弥？」
「正解」
「この服は？」
今着ているのは見慣れたセーラーでなく、濃紺に銀糸で刺繍のされた着流し。
絶対恭弥の趣味だこれ。
「毒サソリが着替えさせた。用意したのは僕だけどね。あのセーラー、ボロボロだったから」
「……十年前の恭弥にもらったのに……」
しゅんと俯くと、少しムッとした表情で十年後の恭弥が僕を覗き込む。
「……今、君の目の前にいるのは子供の僕じゃないよ？」
「知ってるよ……十年後の、大人の恭弥でしょ？……あれ」
恭弥の左手を見て、僕は首を傾げる。
「恭弥、それ……結婚してるの？」
「うん」
華奢なデザインの指輪を愛おしそうに見つめる恭弥に、少し胸が痛くなった。
(……あれ？)
「……あ、そうだ……はい」
僕の手の平に乗せられたのは、恭弥の指にあるものと同じ指輪。
「え……？」
「十年後の君が置いて行ったんだよ。過去の君が来るって、わかってたんだね」
「十年後の僕……って、え⁉」
その言葉の意味を理解した時、僕は頬だけでなく耳も赤くなった。
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作者名：レイン | 作成日時：2018年8月7日 15時
