昔の話 ページ29
それから、神経障害を治すために健康的な生活を心がけた。
でも1番大切な食事に関しては上手くいかなかった。
「今日は魚です」
「さ、魚……」
独りになった時から偏食だった。
町のゴミを漁って食べてそれが慣れていたせいか、藤の家に世話になってからも綺麗な食べ物に手をつけにくかったから食べなかったんだよな。
しのぶさんと仲良くしていた時も食事だけはとらなかった。
【ゴミがこっち来んな汚らしい】
あの特徴的なつり目と口元のほくろが頭から離れない。
「お魚嫌いでした?」
心配そうに俺の顔をのぞくアオイさん。
「い、いえ。嫌いではありません」
「お前魚好きなのか!なら俺のやるよ」
伊之助君が俺に魚をくれた。
あんなこと言ったのに優しくしてくれるんだ、優しい。
「珍しい……、伊之助君が人に食べ物をあげるなんて」
「どういう意味だこのチビ!」
「なんですって!?」
「あわわ!」
「喧嘩はだめですぅ!」
「しのぶ様に怒られてしまいます……!」
なほさん、きよさん、すみさんだったっけ。
「こら伊之助!食事の時は椅子に座るんだ!」
「炭治郎って伊之助の母親だよな」
わいわいしてて賑やかだ。
こんな風に良い雰囲気の中に俺がいる。
嬉しいし、幸せ者だ。
結局、この魚は食べれなかった。
食べてはやく治したいのに劣等感から抜け出せない。
アオイさんは俺の様子をしのぶさんに伝えたのか、夕方くらいに俺の部屋に顔を出した。
「Aさん。
道場に行きましょう、リハビリの時間です」
「うん」
重い腰を持ち上げてしのぶさんについて行く。
「藤の家にいた時も食事をとっていなかったんですか?」
「あー……」
「どうして食べれないのか心当たりあります?」
【きったねぇ奴】
「っ」
なんで今になって思い出すんだろ。
これまで上手くやってきたのに、嫌な記憶が急に蘇る。
しのぶさんは俺の過去を知ってる。
俺が汚い奴だってことを知ってても俺に関わってくれる。
だから俺が食事に手をつけにくい理由を伝えられるのに、言葉にした惨めになりそうで言いたくない。
「っ」
「……」
ビリビリ……、ズキッ!!
「っ!?」
ドンッ!と膝を着いて胸を抑えた。
「Aさん……?」
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作者名:ちゃゆ | 作成日時:2021年11月29日 15時